国産旅客機 効率的な開発体制を整えよ
三菱重工業が、国産初の小型ジェット旅客機「スペースジェット」(旧MRJ)の開発凍結を決めた。
開発が遅れていた上、新型コロナウイルスの流行で旅客需要が急減し、当分の間は開発しても発注が見込めないと判断したためだ。
納入時期を6度延期
運航に必要な型式証明取得に向けた作業は続けるが、今後3年間の開発費は2019年度の6分の1の計約200億円に圧縮。新たな飛行試験も見合わせるため、型式証明取得は早くて24年度以降となり、量産と納入も先送りとなる。
08年に始まった開発は、1960年代に国主導で行われた小型旅客機「YS11」以来、日本が半世紀ぶりに旅客機を一から手掛けるプロジェクトだった。当初は初号機の納入時期を2013年としていたが、経験やノウハウの不足から開発は難航。約100万点におよぶ部品の調達や管理に手間取り、配線トラブルによる設計変更も生じた。今年2月には納入時期を21年度以降にすると発表。これで6度目の延期となった。
このような結果を招いた原因として、自社技術への過信が挙げられる。いったん受注しても開発の遅れでキャンセルが出たほか、最大のライバルであるブラジルの航空機製造大手エンブラエルに新型機納入で先行を許した。
エンブラエルは海外メーカーから優秀な技術者をヘッドハンティングするなど、柔軟な体制で開発に臨んだ。型式証明のルールを欧米勢が握っているという事情はあるとしても、三菱重工にはおごりや見通しの甘さがなかったか。
民間機事業は競合企業が少なく、参入すれば市場を席巻できる一方、開発段階で巨額の先行投資が必要となる。既に開発費は1兆円規模に膨張し、国から500億円の補助金なども投じられた。
開発凍結は、業績悪化で先行投資を続ける余力がなくなったことも大きな原因だ。三菱重工の20年9月中間連結決算は、スペースジェット関連損失に新型コロナ流行の影響が重なり、純損益は過去最悪の570億円の赤字となった。
一方、スペースジェットは型式証明取得のために米国での飛行試験を進め、3月には愛知県内で最新の機体での試験にも成功していた。3900時間に上る飛行データもある。将来の再開に向け、これまでの開発の在り方を検証し、効率的な体制を整える必要がある。
航空機は産業の裾野が広い。自動車や電機大手が海外に生産拠点を移す中、国内で民間航空機を完成まで手掛けることは、政府にとっても産業政策の重要課題となっている。今年7月策定の成長戦略でも、スペースジェットを含む航空機産業の拡大を掲げた。
「日の丸ジェット」実現を
「日の丸ジェット」が実現すれば、雇用確保につながるとともに、日本が製造業の分野で国際的な存在感をさらに高めることもできよう。
厳しい環境の中ではあるが、官民が協力して開発への道筋を付けたい。