首相東南ア訪問 首脳外交を深め連携強化を


 自由で開かれたインド太平洋地域を守るため、東南アジア諸国との連携を一層強めていく必要がある。

 首相としての初外遊でベトナム、インドネシアを訪問した菅義偉首相には、両国首脳との個人的な関係を深め、より強固な関係を築いてほしい。

 防衛協力の推進で一致

 菅首相はベトナムのグエン・スアン・フック首相との会談で、中国を念頭に「東・南シナ海で一方的な現状変更の試みを深刻に懸念しており、ベトナムと引き続き連携していく」と表明。ハノイ・日越大学でのスピーチでは「南シナ海の緊張を高めるいかなる行為にも強く反対する」と強調し、中国を牽制(けんせい)した。

 南シナ海での領有権問題で、中国と緊張関係にあるベトナムのフック首相は「深刻な懸念を共有する」と応じた。会談では日本から防衛装備品を輸出する防衛装備品・技術移転協定で合意。また新型コロナウイルス感染拡大で問題が浮上した中国依存脱却のため、医療品のサプライチェーン(供給網)の多元化でも連携強化で一致した。

 何より最初の訪問国ベトナムで「自由で開かれたインド太平洋」構想実現で協力していくことを確認し、菅外交の柱の一つを内外に示した意味は大きい。対面による本格的外交でいいスタートを切ったと評価したい。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)で最大の人口を持つインドネシアでも、ジョコ大統領との会談で同構想の実現に向けての協力を確認。防衛装備品の移転協定の協議加速、2015年以来となる外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の早期再開を確認した。新型コロナ感染による経済の落ち込みを踏まえ、500億円の円借款供与も表明した。

 同構想の実現においてASEANはその要となる地域だ。一方、中国も経済的な結び付きを強めており、ASEANは米中のはざまにあって揺れている。

 日本はASEAN諸国を、自由や法の支配といった価値観を共有する陣営に引き付ける使命がある。軍事力、経済力を柱に結び付く米国や中国とは一味違う関係を構築していくべきだ。

 そういう意味で菅首相が、ASEAN諸国や人々との共通項を強調したのは評価できる。日越大学でのスピーチでも、たたき上げの自身の経歴を紹介しながら「ベトナム、そしてASEANの歩みとも、どこか似ているものを感じる」と親密さを演出した。

 外交はそれぞれの国益を背景にした、さまざまな利害関係で動く一方で、人と人との交渉、関係であることに変わりない。最終日の記者会見で菅首相が「私自身が首脳外交を展開してASEANと緊密に連携する」と語ったのは心強い。

 安倍氏と違った持ち味を

 日米関係が良好だったのも、安倍晋三前首相とトランプ大統領との個人的な関係があったからだ。

 安倍氏はあの気難しいトランプ大統領を手なずけた猛獣使いと評されたりするが、トランプ氏の心をつかんでいた。菅首相には、安倍氏とは違う持ち味を生かし、ASEANの首脳の心をつかんでほしい。