北方領土 露の不法占拠正当化を許すな
今月初めの全国投票で承認され、発効したロシアの改正憲法には「領土割譲の禁止」が明記されている。
改憲後、ロシアでは北方領土の不法占拠を正当化する言動が目立つ。日本固有の領土である北方領土を侵害し続けることは決して容認できない。
改憲で領土割譲を禁止
北方領土を事実上管轄するロシア極東サハリン州政府は、改憲成立を受け、国後島に領土割譲禁止の条文を刻んだ記念碑を設置。ロシアのプーチン大統領は、この条文が北方領土を念頭に置いていることを示唆した。
さらにロシアのラブロフ外相は、北方領土問題を含む日露の平和条約締結交渉について、領土問題解決後に条約を締結するという日本の方針は「(日露間で)合意したことではない」と述べ、受け入れない姿勢を強調している。
改正憲法は領土割譲に向けた行為や呼び掛けを禁じる一方、「隣国との国境画定作業」を例外として認めている。しかし最近のロシアは、北方領土はロシアに帰属しており、日本とは領土交渉を行っていないとする立場を示している。改憲に乗じ、領土問題をうやむやにすることは許されない。
2018年11月の首脳会談でプーチン氏は安倍晋三首相と、平和条約締結後の歯舞、色丹両島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に条約締結交渉を進めることで合意したはずだ。日本は北方四島返還を目指すべきであり、2島では到底納得できないが、プーチン氏に領土交渉を行う意思があったことは事実であり、北方領土を国境画定作業の対象としないことは矛盾している。
プーチン氏には領土割譲を禁止する改憲を実現したことで、政権の求心力を高める狙いがあろう。ロシアは北方領土の軍事拠点化を進めており、返還によって北方領土に米軍施設が設置されることへの警戒心も強い。だが、どのような理由があっても北方領土の不法占拠を正当化することはできない。
安倍首相は、北方領土問題に関して「新型コロナウイルス感染を早く収束させ、次の首脳会談を考えたい」と述べ、プーチン氏との会談実現に意欲を示した。もちろんロシアと交渉しなければ北方領土は返ってこないが、交渉するのであれば何としても4島返還を実現するとの決意を持って臨むべきだ。
今年2月の北方領土返還要求全国大会のあいさつで、首相は長年の立場である「日本固有の領土」との表現を使わず、大会アピールに「不法占拠」の言葉もなかった。ロシアを刺激しないように配慮したのだろうが、これではロシアを付け上がらせることにならないか。
粘り強い取り組みを
元島民の高齢化が進む中、戦後75年にわたる北方領土問題を解決したいという首相の思いは理解できる。しかし成果を焦れば、ロシアに足元を見られるだけだ。
領土問題で譲歩し、日本は主権や領土を軽んじる国家と見なされれば、沖縄県・尖閣諸島の奪取を狙う中国を勢いづかせることにもなりかねない。4島返還に粘り強く取り組むべきだ。