少子化対策 専門省庁の創設を検討せよ


政府は、2025年までの子育て支援の指針となる第4次少子化社会対策大綱を閣議決定した。最大の特色は、数値目標として「希望出生率1・8」の実現を初めて明記したことだ。
背景には、歯止めが掛からない少子化への危機感がある。

出生率1・8を目指す

大綱は冒頭で、19年の推計出生数が過去最少の86万人だったことを「86万ショック」と表現し、強い危機感を示した。人口が減少すれば、国力の衰退は避けられない。少子高齢化はまさに「国難」であり、国を挙げて克服すべき課題である。

ただ、この5年間で出生率1・8を実現することは簡単ではない。1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す「合計特殊出生率」は18年が1・42で、1995年以降1・5を割り込んでいる。

大綱には子供を安心して産み育てられるよう、不妊治療支援や児童手当の拡充などに取り組むことが盛り込まれた。不妊治療をめぐっては、特に高額な医療費がかかる体外受精や顕微授精について、効果が見込まれるものには保険を適用するなどして負担を軽減する検討に入る。児童手当を拡充する場合は、3人以上の子供がいる「多子世帯」に重点を置いて検討することが必要だと強調した。

このほか、男性の育休取得率を30%、1人目の子供を産んだ女性が継続して就業する率を70%にするなどの数値目標も掲げられた。新型コロナウイルスの感染拡大で広がったテレワークの推進に取り組む方針も示されている。テレワークの活用が進めば、子供を産み育てやすい地方への移住を促すことにもつながろう。

これらの施策はもちろん重要であり、着実に実行していく必要がある。ただ出生率1・8の実現には、もっと抜本的な対策が求められるのではないか。

元厚生省児童家庭局企画課長の大泉博子氏は、本紙インタビューで「『人口省』の創設が急務だ」と述べている(2018年12月21日付)。専門省庁を新設し、政府を挙げて解決に取り組むことも検討すべきだろう。

初めて少子化が問題となった1990年代当時、同局で福祉課長だった大泉氏は「戦前の『産めよ、殖やせよ』の言葉を想起させる『人口政策』という言葉は使えない」(同20日付)という当時の様子についても証言している。このため、94年12月の第1次エンゼルプランは「保育政策」に矮小化されたという。

政府が2013年、高齢出産のリスクなど妊娠・出産をめぐる知識を深めてもらうことで少子化傾向の改善につなげようと導入を検討していた「女性手帳」も「価値観の押し付け」との批判を受けて導入を断念した。「個人の自由」を持ち出して政府の人口政策に反発していては、少子化問題を解決できない。

国民の協力を求めよ

少子高齢化が進めば、社会保障費が膨らんで現役世代の負担は重くなる。不利益を被るのは国民一人一人なのである。

政府は少子化克服に向け、もっと積極的に国民の協力を求めるべきではないか。特に、若い人たちに結婚や家庭の重要性を伝えていく必要がある。