北極圏戦略 米軍はプレゼンス高めよ
米海軍の艦船4隻が、英海軍のフリゲート艦1隻と共に戦略的重要性が増している北極圏での演習を実施した。トランプ米政権は、北極圏で中国やロシアの海軍・海洋行動に対抗しようとしている。今回の演習も、その一環だと言える。
中露が影響力を拡大
今回の演習はバレンツ海で行われ、米艦船のうち3隻は誘導ミサイル駆逐艦、もう1隻は支援艦だった。米軍のバレンツ海での軍事演習は三十数年ぶり。「航行の自由を主張し、同盟国間のスムーズな連係を確実にするため」と演習の意義を説明している。
北極海をめぐっては、地球温暖化が進んだことで氷が解けだし、船舶が航行しやすくなったのがきっかけで、各国はここ数年、それぞれの思惑で動き始めている。特に、中露は北極圏を21世紀の経済計画の柱とする戦略を推し進めている。
中国政府は2018年1月、北極圏の政策をまとめた初の戦略を発表した。シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一部として北極圏の海上交通路を「北極シルクロード」と位置付け、資源開発に野心をのぞかせている。人民解放軍の基地建設も視野に入れ、北極圏での活動を活発化させている。
中国にとって北極海は、核抑止の要となる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦を米露の狭間に配備できる要衝でもある。南シナ海のように軍事拠点化されることが懸念される。一方、ロシアは北極海航路や海底資源を国益と見なし、北極圏に軍事・研究拠点を構築しつつある。
北極圏の持続的開発などについて協議する国際機関として、米露やフィンランドなど沿岸8カ国による北極評議会がある。ポンペオ米国務長官は昨年5月、フィンランドで開催された北極評議会の会合で「北極圏が新たな競争の舞台になっている」と述べ、北極圏で影響力を拡大させるロシアと「近北極」国家と名乗る中国を非難した。
ポンペオ氏は「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と訴え、中国の北極圏進出に強い警戒感を示した。また、航行に事前許可を求めるロシアの制度を「違法だ」と断じ、14年3月のウクライナ南部クリミア半島併合の事例を挙げて「ロシアの領有権をめぐる主張は暴力を伴うものになり得る」と強い懸念を示した。
米国防総省は昨年6月、新たな「北極圏戦略」を発表。中露両国が秩序を脅かしているとして、北極圏における米軍の作戦能力を強化する方針を示した。砕氷船の建造や極寒地での訓練などを行い、米軍のプレゼンスを高めていく必要がある。
開発ルール作りに貢献を
日本政府は18年5月、今後5年間の海洋政策の指針となる海洋基本計画を閣議決定。「北極政策の推進」を初めて主要施策として明記した。北極圏の研究体制を強化するため、砕氷機能を持ち、通年で観測できる研究船を建造する方針だ。
北極には南極条約のような国際取り決めがない。北極評議会のオブザーバーでもある日本は、北極圏開発のルール作りにも貢献すべきだ。