クルーズ船 「旗国主義」が国際ルール
政府は、国際社会から非難を浴びたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での新型コロナウイルス感染への対応について、今後検証作業を実施するとしている。
非難浴びたウイルス対応
こうした中、今月中旬に自民党の薗浦健太郎総裁外交特別補佐がスティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)らと会談し、クルーズ船での感染症発生への対処について国際ルール作りを検討することで合意したと伝えられている。だが、今回の事態における最大の問題点は、政府・外交当局が国際ルールに基づく対応をしなかったことである。
国際法上、海洋では軍事用艦艇のみならず民間船舶も、船内で起こった事態への対応には「旗国主義」が採用されるルールが確立している。つまり、航海時に船内で起こった伝染病はむろん犯罪のような事態も全て、船籍に関係なく航行時に掲げていた国旗の国家の法律が適用される。船長には、法律を執行する権限が与えられている。
船舶の運航に責任を持つのが船籍を置く国ではなく旗国とされているのは、日本のみならず諸外国の多くの船舶会社が「便宜置籍船方式」を採用しているからである。船舶会社がリベリア、パナマ等にペーパーカンパニーを設立し、そこに船籍を移しているのは、税金が安くて済むからにほかならない。
これらを前提に今回の事態発生・処理についての責任を考えると、日本にはない。ダイヤモンド・プリンセスは英国の企業「カーニバル・コーポレーション」に船籍があり、かつ同船は「ユニオンジャック」を掲げて航行していたので、旗国は英国である。従って、今回の感染対処の全責任は英国にある。
ただ、同船の運航は米国の会社に委ねられている。しかし、責任は英国の会社と米国の会社間の問題であって日本には無関係だ。いずれにしろ、同船の中は英国内の領土と同じなのだ。
もっとも、日本の港に着岸を認めたこともあって、日本政府が英国政府からの要請を受け、対処に協力することは人道上、当然である。その場合も、対処の責任は英国政府、カーニバル・コーポレーション側にある。だが、日本は全ての責任を押しつけられ、英米をはじめとする諸外国から非難されている。
厚生労働省にこれらの国際法上のルールについて判断を求めるのは無理がある。しかし、こうしたルールを承知しているはずの外務省が、政府当局に助言を与えた形跡は皆無のようだ。また対外広報面でも、旗国主義を踏まえた英国の責任についての情報発信が不十分だったことは否めない。この点も反省すべき点だ。
感染症への対応可能に
事態が収まれば、クルーズ船を利用した観光旅行が増えることが予想される。感染症の発生という視点から見れば、遊興施設が船内の中心となっているクルーズ船は、隔離施設などを設けにくい構造になっている。
日本の造船会社は世界のクルーズ船の多くを建造している。感染症に対応できる構造にすることも、反省点として取り上げる必要がある。