米朝会談1年、非核化アプローチを見直せ


 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がベトナムの首都ハノイで行った首脳会談から1年が過ぎた。最大の懸案である北朝鮮の非核化は一向に進展せず、現在は米朝対話も途切れたままだ。交渉の場に北朝鮮を呼ぶだけでは限界があることを露呈したと言える。非核化へのアプローチを根本的に見直す時だ。

交渉だけでは限界

 ハノイ会談は当初、北朝鮮が寧辺にある核施設の廃棄に応じる代わりに米国が北朝鮮に科している制裁を解除するディールになるとみられていた。だが、会談が始まるとトランプ氏は正恩氏に対しより踏み込んだ非核化措置を求めた。最終的に交渉が決裂したのは正恩氏がトランプ氏の出方を見誤ったためだ。

 正恩氏にとってトランプ氏との会談は、保有する核兵器や核物質、各種弾道ミサイルの全廃や核・ミサイル製造能力の完全放棄に実際にはできるだけ応じないまま、逆に制裁解除を最大限に引き出すことに主眼が置かれていたとの見方が支配的だ。それはすでに前年、シンガポールでの初会談で署名した共同宣言に表れていた。北朝鮮が完全非核化を先行させなくて済むよう最初から抜け道を作っておいたからだ。

 にもかかわらず米朝はうわべの非核化交渉を続けた。トランプ氏が朝鮮半島の融和ムード醸成を自分の外交実績にしようと考え、そこに正恩氏が一縷の望みを託したためだ。2人の非核化交渉を楽観視し過ぎた一部メディアにも責任の一端はある。

 だが、もう派手な演出は終わりにしなければならない。北朝鮮は体制維持の必要性などから結局は核放棄に応じない可能性が高い。それを覚悟の上で交渉をするならば、まず北朝鮮側の真意を見極めることが先決だ。交渉では非核化措置を制裁緩和の前提条件にし、合意ありきにさせないなど北朝鮮ペースに巻き込まれないよう細心の注意を払わなければならない。

 しかし、残念ながら交渉だけで北朝鮮に完全非核化を呑ませるのは困難だ。米大統領の任期は4年で、再選しても8年すれば必ず交代する。交渉が行き詰まれば北朝鮮は次の政権交代まで時間稼ぎをする公算が強い。

 制裁も北朝鮮にとって打撃だが、それだけで完全非核化に応じるとは思えない。正恩氏は昨年末の党中央委員会総会で繰り返し「自力更生」を強調し、長期戦に備えるよう呼び掛けた。

 北朝鮮が最も恐れるのは、米国が軍事オプションを検討し始めた時だ。トランプ氏がそうした決断を下せるかは未知数であり、日本や韓国など周辺国への影響をどこまで抑えられるかなど課題も残るが、可能性はゼロでないと北朝鮮に思わせることが重要だ。

懸念される米韓演習延期

 その意味で、縮小の一途を辿っている米韓合同軍事演習がこのほど延期されたのは懸念材料だ。新型コロナウイルスの感染拡大が理由だが、演習には北朝鮮の軍事挑発を封じ込める抑止力維持の役割はもちろん、米国の決断さえあれば北朝鮮への軍事行動も辞さないというメッセージが込められていることを忘れてはなるまい。