あおり運転 悪質な危険行為の防止徹底を


 「あおり運転」の取り締まりに関連して、全国の警察が昨年1年間に道路交通法の車間距離保持義務違反で摘発した件数が1万5065件(前年比2040件増)だったことが分かった。

 警察庁は、あおり運転の罰則を新設する道交法改正案の今国会提出を目指している。悪質な危険行為の防止を徹底しなければならない。

大半は高速道路での違反

 摘発件数のうち1万3787件は高速道路での違反だった。直前に進入したり接近したりした上で、重大な危険が生じる速度で運転することを罰する危険運転致死傷罪(妨害目的)が適用された件数は33件(前年比8件増)で、うち1件は同致死罪だった。

 警察庁が2600人余りのドライバーを対象に行ったアンケート調査では、35%が「過去1年間にあおり運転の被害に遭った」と回答している。悪質な運転が後を絶たない状況を改善する必要がある。

 あおり運転をめぐっては2017年6月、神奈川県の東名高速道路で、進路をふさがれ、車を停止させられた一家4人がトラックの追突で死傷する事故が起きたことで社会問題化した。昨年8月には茨城県の常磐自動車道で、男性会社員があおり運転を受け殴られる事件も発生している。

 東名高速の事故では18年12月、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた被告に、一審横浜地裁の裁判員裁判で懲役18年の判決が言い渡された。だが昨年12月、東京高裁は一審判決を破棄し、審理を横浜地裁に差し戻した。

 背景には、現行法にあおり運転に関する規定がないことがあろう。警察は特に悪質な場合、暴行罪や傷害罪などの適用や、著しい危険を生じさせる恐れのあるドライバーを「危険性帯有者」と認定し、最長180日間の免許停止にする処分も行っている。しかし、あおり運転そのものへの罰則がなければ十分とは言えまい。

 警察庁が今国会提出を目指す道交法改正案では、あおり運転を新たに定義し、違反1回で免許を取り消すほか懲役刑を設ける。早期成立を強く求めたい。

 さらに先月、森雅子法相は法制審議会(法相の諮問機関)臨時総会で、自動車運転処罰法が規定する危険運転致死傷の要件見直しを諮問した。通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止する行為について明文化し、あおり運転に厳しく対処するのが狙いだ。

 東名高速の事故などを踏まえたものだが、防止徹底に向け、こちらの改正法成立も急務だと言える。

厳罰化による抑止を期待

 厳罰化の効果は、車の運転中にスマートフォンなどを操作する「ながら運転」でも表れている。懲役刑を設けた改正道交法が施行された昨年12月は、摘発件数が前年同月比で半数以下に減少した。

 厳罰化は16年10月、愛知県一宮市で当時9歳の男児が、スマホゲームに気を取られていた男の運転するトラックにはねられて死亡した事故が契機となった。あおり運転でも厳罰化が抑止力となることを期待したい。