再生医療 生命倫理確立し再発防止を


 再生医療を国に無届けで実施したとして、この1月、大阪医科大(大阪府高槻市)の元講師(52)が逮捕された。同医療は今日の最新医学・医療として期待されるだけに、現役医師のルール無視はたいへん遺憾だ。生命倫理を確立し許可体制の強化に努めなくてはならない。

研究と臨床一体化を

 元講師は、再生医療安全性確保法に違反し、知人ら4人からさまざまな組織に変化する脂肪幹細胞を採取して培養、うち女性1人に投与した。体の老化を防ぐアンチエイジングが目的だったとみられる。元講師は第一線の研究者で、大学の調べに「人に投与すれば、将来の治療薬開発も視野に入る」と話したという。

 再生医療については、2014年に、世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が行われるなど、着実に成果を上げ、それまで有効な治療法のなかった疾患の治療ができるようになった。また再生医療の安全性を確保するため再生医療安全性確保法が施行されたが、後に、東京や大阪などのクリニックで再生医療の一つ、臍帯(さいたい)血の投与が無届けでなされる事件が起き、医事関係者が有罪となった。

 再生医療はさまざまな治療が提供され、その魅力から高額な治療費を払ってもそれらを受けたいという患者は少なくない。医療従事者はその信頼に応えるためにも、同様の事件を再び起こしてはならない。

 現行制度では、再生医療を実施しようとする医療機関は、専門家でつくる認定委員会の検査、審査を受けた上で、計画を国に届け出なければならない。認定委はその便宜を図るため全国に約150生まれたが、その結果、審査の質にばらつきが認められるようだ。科学的根拠が不十分な認定も見られるという。

 今、再生医療の急速な発展で、その研究と臨床応用が同時並行的に進められるケースが多い。そのため、注意しなければならないのは、臨床応用を明確に見据えた研究開発か、どうかだ。認定委員会は、審査を申し出た医療機関が、果たして研究、臨床ともに安全性を十分確保しているかを厳しく審査しなければならない。同委員会委員の質の向上がぜひ必要である。

 しかも、現在、再生医療に特化した倫理支援や倫理審査のあり方は必ずしも明確でなく、結果的に認定の基準のありようが問われている。政府、国民ともに議論し、再生医療に一貫する、具体的な倫理内容の検討と審査体制の確立が重要だ。

 当の再生医療安全性確保法は、危険性がある再生医療が安易に実施されないよう制定された。その一方で、医療従事者の心底には、まず、目の前の患者の病を回復させたいという善意の欲求がある。これらを満たすために医師の自由裁量である医事はどうあるべきか、という現実的な問題も合わせて追求しなければならない。

治療実績の情報必要

 また、患者は新たな薬や治療法に希望を抱き、特に再生医療は、大幅な症状改善や根治も見込めるため、多大な望みを抱きがちだ。患者側は治療実績の情報などに接し、医療機関についての吟味なども必要だ。