新型肺炎感染 予防と対策徹底し流行阻止を


 中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染者数が世界で6000人を超えた。中国では2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)を超える猛威となっており、政府はチャーター機を派遣して武漢市から邦人の帰国を進めている。当初の観測と違い人から人への感染が認められており、全力を挙げて流行を阻止しなければならない。

 人から人への感染も確認

 政府は新型肺炎を感染症法上の「指定感染症」に指定し、感染が疑われる人の入院や就業制限などに強制措置を取り得るようにするとともに治療を公費で負担する。また検疫法上の「検疫感染症」に指定し、感染が疑われる入国者に対する措置も取っており、対策本部をきょう設置する。妥当な対処であり、引き続き対策を徹底してほしい。

 無論、一人一人が感染予防に努めることが肝心だ。わが国でも渡航歴のない奈良県の男性の発症など人から人への感染が確認され、台湾、ドイツからも人から人への感染が報告された。

 国立感染症研究所によると、コロナウイルスによる風邪は軽症にとどまることが多い。予防は一般的な風邪やインフルエンザと同じように、外出後の手洗い、うがい、マスク着用による咳(せき)エチケット、アルコール消毒などが有効で、例年にも増して心掛けたい。

 ただ新型ウイルスが懸念されるのは、治療に有効なワクチンの開発になお時間を要することだ。その間に、人への感染が連鎖する過程で感染力が強くなり、SARSや14年の中東呼吸器症候群(MERS)のように重症をもたらす場合もある。

 このため発見と対策が早いに越したことはないが、今回の新型コロナウイルスについて中国当局の情報開示の遅れは否めず、感染者数が数十人単位からわずか数日で千人単位に急激に膨らんだことは、初動において武漢市が意図的に少なく発表をした疑いが持たれる。

 武漢市で原因不明の肺炎の発症が確認されたのは昨年12月1日だが、最近になって新型肺炎は感染から発症までの潜伏期間が約2週間あると発表されたことから、少なくとも11月には感染していたとみられている。また、初期の発症者はハリネズミや蛇などの爬虫(はちゅう)類を売買している同市内の華南海鮮市場に出入りしている関係者だったとされていた。

 しかし、米ジョージタウン大学非常勤教授のダニエル・ルーシー氏は米国の科学ニュースサイトに発表した論文で、1月2日までに新型肺炎を発症して武漢市の病院に入院した患者41人のうち同市場に出入りしていたのは27人で、14人は出入りしていないことから同市場以外で静かに感染が広がっていた可能性を指摘している。

 遅れは共産党独裁の弊害

 中国が積極的に対策に乗り出したのは、20日の習近平国家主席の指示を受けてからで、世界保健機関(WHO)は「緊急事態」宣言を1度見送ったが、再検討のため専門調査チームを派遣する。共産党一党独裁体制の組織的弊害は否定できない。遅きに失したとはいえ、国際的な協力で流行を食い止めたい。