自衛隊中東派遣 情報収集限定は解せない
海上自衛隊の中東への派遣がようやく決まった。この海域の安全が日本経済にとって死活的重要性を有している点を念頭に置けば、遅きに失したと言えるものの評価できる。
ただ、海自の活動を防衛省設置法の「調査・研究」に基づく情報収集に限定しているのは解せないし、国際社会でも理解が得られないであろう。
原油輸入量の約9割依存
活動海域はオマーン湾、アラビア海北部、イエメン沖バベルマンデブ海峡東側のアデン湾。いずれも公海で、イランの領海を含むホルムズ海峡は、同国を刺激する可能性があるため除外した。
わが国は、原油輸入量の約9割を中東に依存している。この海域が利用できないようになると、わが国経済は致命的な打撃を受ける。
それなのに「調査・研究」だけでいいのか。従来通り、米海軍に依存するつもりであろう。しかし、国際情勢の変化、中でも米国軍事力の相対的低下を念頭に置かない惰性的な対応と言わねばならない。
米国は、オバマ氏が大統領当時に「世界の警察官をやめる」との方針を打ち出しており、それに伴って海軍力を大幅に縮小している。トランプ大統領も自国の重要な国益が絡まない分野では、手を引きつつあるのが現状だ。
中東でテロ集団のタンカー攻撃事件が頻発しても、既に石油輸出国になっている米国が受ける打撃は小さい。
そもそも政府・行政当局の「調査・研究」はそれ自体が目的でなく、直面している事態への対応策策定のための準備作業である。学者、研究者の場合でも対応策を示すことが求められる。政府・行政当局はさらにその実行が不可欠である。
せっかく派遣された海自の艦艇や偵察機が「調査・研究」だけに終われば、国際社会で物笑いの種になるだけではない。日本のタンカーを攻撃しても、反撃されないと分かれば、好個の標的として攻撃するであろう。テロリストの目標は「恐怖を与える」ことで自己の意思や政策を伝えることにあるが、その際は自らが受ける被害を最小にするために弱い相手を狙うことを忘れてはならない。
「国際化」が強調されて久しい。だが、わが国では憲法、防衛省設置法や過去の防衛絡みの国会答弁が金科玉条のようにされている。
今回も例外ではない。国際社会で行動する場合、遵守(じゅんしゅ)すべきは国内法ではなく国際法である。「軍隊」という表現を用いるか否かにかかわらず、国外に派遣される自衛隊は国際武力紛争法に従うことが義務付けられている。
安全確保は国際的義務
それにわれわれが忘れてならないのは、冷戦後においては世界の有力国が協力して国際社会の秩序を守る必要があるという点だ。国連が冷戦下と同様に国際秩序の維持に関して無力であるからである。
この視点で考えれば、中東海域でのテロ活動について「調査・研究」だけでなく安全確保のための一翼を担うことは、国際社会での義務ですらある。