新国立競技場 日本らしい五輪のシンボル
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場(東京都新宿区)が完成した。
多くの木材を使用して暑さ対策に自然の風を生かすなど、日本らしい五輪のシンボルが誕生した。
47都道府県の木材を使用
新国立競技場は地上5階、地下2階、座席数約6万席。世界最高水準のユニバーサルデザインをうたい、車いす席を約500席、障害者らに配慮したアクセシブルトイレを約100カ所設けた。
1964年東京五輪の主会場となった旧国立競技場を取り壊し、跡地に建設された。完成までには、外国人建築家による当初案が整備費膨張への批判から白紙撤回されるなどの混乱もあった。その後新たに建築家の隈研吾氏らが設計を手掛け、2016年12月に着工してから3年で完成した。
「杜(もり)のスタジアム」をコンセプトに、観客席の上の屋根は木材と鉄骨を組み合わせた構造とした。外周のひさしには47都道府県から調達した木材を配するなど、木のぬくもりを感じさせる造りとなっている。
北側と東側の入場ゲートには、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城、福島3県の木材、南側ゲートには熊本地震で被災した熊本県の木材を使用した。これは、東京五輪が「復興五輪」でもあることのアピールとなろう。
暑さ対策では、ミスト冷却設備8カ所、観客席に風を送る「気流創出ファン」185台を設置。このほか、ひさしを通じて自然の風を取り込むようにした。随所に日本らしさが取り入れられている。
一方、緑豊かな明治神宮外苑の景観との調和を図るため、高さは約47㍍に抑えた。コンコースや競技場周辺には約4万7000本の植栽が施された。夜間は照明でスタジアム全体がぼんぼりのように柔らかく浮かび上がる。観戦に訪れる外国人観光客にも喜ばれるのではないか。
最終的な整備費は約1569億円となり、整備計画上限約1590億円を下回った。費用を抑え、20年1月の期限に間に合わせるとともに、東京開催の五輪にふさわしい競技場となったことを高く評価したい。
五輪では開閉会式のほか、陸上競技やサッカーが行われる。選手と観客が一体となり、歴史に残る熱戦が展開されることが期待される。
ただ、新国立競技場をめぐっては課題も残されている。政府の関係閣僚会議は17年11月、東京五輪・パラリンピック後はサッカーやラグビーなど球技専用とする方針を決めた。
年間の維持管理費が約24億円と試算されており、球技専用とした方が収益が見込めるためだが、陸上トラックを残すべきだとの異論も出ている。トラックを撤去した場合、コンサートを開くためにステージをフィールドに設置すると芝生を傷めることにもなる。
記憶呼び起こす施設に
政府は、当初年内に決める予定だった競技場の民営化計画を、大会後に先送りした。五輪の記憶を呼び起こす施設として活用することが求められる。