米朝会談は甚大な成果
米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談がシンガポールで実現してから1カ月が過ぎようとしているが、この間にその成果をめぐってさまざまな議論がなされてきた。例によって、トランプ大統領と険悪な状態にある米国メディアを主要なニュース・ソースとする日本の大手メディアは批判的な論調が強い。
まず、会談後に公表された両国の共同宣言には最終的な目標としての朝鮮半島の非核化が明記されたにとどまり、具体的な方法や日程の提示がなかったことである。しかし、両国の首脳会談は史上初の試みであり、まずは顔合わせをすることが最大目的であったはずである。また、北朝鮮にはこれまで具体的な取り決めをしてもそれを反故(ほご)にして裏切りを繰り返してきた経緯がある以上、むしろ長い間、迷宮の奥に居座ってきた北朝鮮指導者を国際社会の白州へ引き出したトランプ大統領の功績は、かつての米国大統領たちの誰もがなし得なかった甚大な成果である。
次に、記者会見が米国単独で行われたことも批判の対象となった。通常の会見のように両者が並立する形式ではないことが巨大な違和感となり、まるで決裂した後の会見のような印象だったというわけであろう。しかし、通常の記者会見とは友好関係が確立された国々が行うべき形式であって、米国にとって北朝鮮がいまだに信用に足る相手ではない以上、むしろこれは、トランプ大統領特有の「北朝鮮はまだわが国の友好国ではない」と暗に脅迫しているようにすら感じられる。
また、核廃絶に掛かる経費を韓国と日本に負担させることも否定的な受け取り方がなされた。しかし、北朝鮮の核・ミサイル開発という問題は、そもそもが近隣諸国である韓国と日本にとっての安全保障問題であって、その経費を負担するのは政策として当然の国家的責務であろう。また、米国以外にも正式に他国がメンバーとして加われば北朝鮮も従来のようにごまかせなくなることは確実である。
さらに、日本にとっては拉致問題を棚上げにした点が残念に思われた。しかし、北朝鮮の最大の外交資源はまさに核・ミサイルの保有にあるのだから、まずはその権力の源泉を削(そ)ぐことが優先されるのは残念ながら政治の原則と言わねばならない。北朝鮮を丸裸にした後に、拉致被害者の救出が迅速に遂行されることを願うばかりである。
なお、トランプ大統領は相変わらず経済制裁の手は緩めておらず、また段階的緩和という発言も聞かれない。それは実際に作業が行われなければ一歩も引かないという米国の強い決意を意味している。
こうしてトランプ外交はボディブローのようにジワリと北朝鮮を追い詰めている。それはまさに「真綿で首を絞めるがごとき」の脅迫手法であり、実は米国が伝統的に最も得意とするやり方に他ならない。ただし、これに北朝鮮がいかなる対抗をしてくるのかは今だに予断を許さない状況にある。