安保関連法施行を前に 政治家の責任と覚悟を問う
嘆かわしい政治の頽廃
1月6日の午後0時半に突如、北朝鮮は国営の朝鮮中央テレビを通じて、「最初の水素爆弾実験を実施した」と発表した。この暴挙に松の内の屠蘇気分は吹き飛び、日本中が震駭(しんがい)する事態となった。
翌日の新聞各紙は「北朝鮮の核実験」を大見出しで報じ、安倍首相の「我が国の安全に対する重大な脅威で断じて容認できない。強く非難する」との声明に合わせて、対北朝鮮制裁強化の方針を伝えている。
ところが、この朝野を揺るがすニュースで埋まった紙面に何か場違いな感がする小さな記事が目に留まった。それは北朝鮮の核実験が行われた同日の午前、衆院議員会館内で「男性の育児参加を支援する自民党若手議員の会」が開かれたというものである。
何のことやらと関連記事を渉猟(しょうりょう)してみると、主催したのは宮崎謙介衆院議員で、通常国会会期中の今月出産予定の妻(自民党の衆院議員)と一緒に育児に関わりたいとして、1カ月間の育児休暇を取ると宣言した議員だという。10名が参加した勉強会の結論は「衆院規則を改めて男性国会議員が育児休業を取得すれば、“隗(かい)より始めよ”で、男性の育児休業の取得の推進にも資する」というものらしい。
自民党の議員も立党60年で様変わりしたものだ。国会議員が私事を優先するのであるから何をか言わんやである。これらの軽薄な議員にはただ、「大義親を滅す」とだけ言っておく。何のために国会議員になったのか、篤(とく)と自省すべきであろう。
更に道義に悖(もと)ると言わざるを得ないのは、甘利前経済財政・再生相だ。違法献金疑惑をめぐる責任を取り閣僚を辞任した。甘利氏は記者会見で「政治家としての矜持、美学、生き様に反するとして職を辞する」と述べたが、大臣室で現金を受け取った時点でそれらはすべて穢れたことに気付いていないようだ。
第二次安倍内閣が発足して「政治とカネ」の問題で辞任した閣僚は甘利氏で4人目と聞く。これら政治家にも「屋漏(おくろう)に愧(は)じず」の箴言(しんげん)を呈するが、政治の劣化と頽廃(たいはい)が余りにも嘆かわしく憂憤を禁じ得ない。
こうした中、いよいよ安全保障関連法が来月末までに施行されることになる。自衛隊は新たな任務に即応できるよう部隊行動基準(ROE)や訓練計画の見直しに基づき訓練をを進めているようである。
自衛隊の実戦的な訓練
昨年12月に放送されたNHKスペシャル「自衛隊はどう変わるのか~安保法施行まで3か月~」では、すでに戦闘になることを見越した陸自部隊の実戦的な訓練の状況が映し出されていた。貫通銃創を負い朱に染まった隊員の救命措置訓練などはリアルそのもので、若い陸士(兵士)の顔は恐怖と緊張で引き攣(つ)っていた。
中でも印象に残ったのは自衛官の父子の会話の場面であった。現役の自衛官でもある父親は気丈にも息子に訓練の重要さを諭していた。テレビカメラは父親の憂慮の表情を捉えており、その心中が察せられた。
安保関連法に含まれる改正PKO協力法によって、いわゆる「治安維持」や「駆けつけ警護」などが可能となる。南スーダンでの自衛隊のPKO活動にこれらの任務が追加されることが予想され、自衛隊は初めて武装勢力との戦闘任務に就く蓋然性とリスクが確実に高まることになる。
当該任務の実施には国会の承認を必要とし、国会が責任を負うことになるが、私利私欲と苟且偸安(こうしょとうあん)を事とするような政治家にその責任を負う覚悟があるのかと強く問いたい。