戦後初の「国家戦略」 積極的平和主義で連帯を


期待が高まる国際貢献

 安倍政権が戦後初ともいえる国家戦略を打ち出した。2013年12月17日にNSC(国家安全保障会議)を開き、外交・安全保障政策の柱として「国家安全保障戦略」が閣議決定された。それは「積極的平和主義」の採用決定だった。積極的平和主義は国際協調主義と法の支配(Rule of Law)という価値観に支えられる。「積極的平和主義」は戦後初めて日本政府が提示した国家戦略であり、画期的なことであり、極めて重要な意味を持つ。

 日本は戦後一貫して消極的平和主義といえる政策を選択したと言える。一方、冷戦終結後、戦争や紛争は急速度で増加している。今の日本には、独立国としての当然の責任、即ち、自分の責任と判断で平和と安全を創り出し、その上に繁栄を創り出すことが要求されている。

 特に、海の平和・海上交通線の安全は世界の平和と繁栄の鍵を握る。日本にとり太平洋とインド洋のそれは生命線であると言える。原発が止まっている今、地球の反対側で起こる紛争が日本経済の大動脈を止める危険性が高くなっている。現在は、国際的な相互依存度は極めて高くなり、いかなる国も単独で平和と独立を守ることができなくなった。国際社会の平和と秩序維持のために軍事面も含めて積極的な貢献を期待されている。中でも海洋国家群は日本と運命を分かち合う諸国が多い。このような時代の要請に対応するべく積極的平和主義が採用された。

 積極的平和主義は単なる「戦争の無い状態」を追求するものではない。「平和の安定(長期の継続)と繁栄」を追求するものである。積極的平和主義を実行するための重要な原則が「国際協調主義」である。国連を尊重しながらも、まず同盟国である米国と協力し先進自由民主主義国家群と歩調を合わせその目的を果たす。また、多様な歴史・文化政治制度の諸国家を、国際平和秩序を破壊しない限り家族のように対応しようとする――等の外交の原則である。

「法の支配」を基礎に

 積極的平和主義はその目的を「法の支配(Rule of Law)」が確立された国際社会の実現」に置いているようである。「法の支配」の「法」とは普遍的価値観であり法律の意味ではない。法(自然法)とは「神によって人間には生命・自由・幸福を追求する権利が与えられている」という事実である(米国独立宣言・1776年)。

 「法の支配」は米・英民主主義思想の根底にある価値観である。英国政治思想の巨人ジョン・ロック(17世紀後半)の思想といわれるが、千年以上の英国キリスト教社会で育まれてきた政治思想とも言える。「法」とは自然法であり「神の意志」を意味する。「法は王、議会、国民、憲法・法律等の上にあり、法を侵害してはならない。法の目的を果たすために国王、議会や憲法・法律が存在する。政府や軍は法の支配を保護するために必要であり、国民の手により設立される。また国民はその政府や法律に従う義務がある」とする。

 この政治思想は中華人民共和国の「共産党の支配」と対極にある。憲法の上に中国共産党があり、憲法や法律の解釈権は独裁者の習近平主席と共産党が持つ。国際法や国連海洋法も中国共産党のもとにあると信仰している。弱い時はそれらに従うふりをするが、今や、力を持てば無慈悲に踏みにじろうとしている。

 太平洋やインド洋、アジアの海洋国家群は極めて多様な宗教と文化を持つ。しかし、「法の支配」はすべての国に通じる価値観であり、それぞれの国が到達するべき目標地点になり得るものである。「法の支配」に基礎を置く「積極的平和主義」は、アジアの海洋諸国家の自由と主体性を尊重しながら、日本が彼らと連帯するために大きな貢献をするだろう。