海上連絡メカニズム 中国の術策にはまるな

APECで無礼な対応

 今月10日、APEC(アジア太平洋経済協力会議)出席のため北京を訪れた安倍首相は、中国の習近平国家主席と会談した。その会談に先立つ写真撮影で2人が対面した様子がテレビで報じられていた。安倍首相の礼を尽くした挨拶(あいさつ)に対して返事もしない習国家主席の仏頂面には恐れ入った。これがAPEC議長国としての元首がとるべき態度であろうか。外交儀礼を弁えぬ無礼千万の対応はまことに苦々しき一幕であった。

 元より中国共産党は封建時代の遺物として儒教そのものを否定していることから、このような非礼、専横な行為が黙許されると思っているのかもしれぬが、儒教の開祖孔子が最も大切にしたのは「礼」であり、「礼の制度が衰頽し、守られていないことがあらゆる政治的・社会的・道徳的な無秩序の根源である」と説いていることは蓋(けだ)し至言であろう。

 なぜならば今の中国を見てみるがいい。共産党の高級幹部や役人の恐るべき腐敗と汚職、不正蓄財や蓄妾などが次々と曝露(ばくろ)されていることを。果ては日本の領海や排他的経済水域内での中国漁船のサンゴの密漁など目に余る無法行為が罷(まか)り通っていることを今更論(あげつら)うまでもあるまい。

 これが世界第2位の経済大国として、米国と対等の「新しいタイプの大国関係」の構築を標榜(ひょうぼう)しているのであるから何をか言わんやである。その実態は所謂(いわゆる)“ごろつき国家”と何ら変わるところがないと言っても過言ではなかろう。

 ともあれ、今回の首脳会談によって膠着(こうちゃく)していた日中関係がようやく改善に向けて動き出したと新聞各紙は記し、中でも「海上連絡メカニズム」の運用を早期に開始することで合意したことを評価しているようである。確かに艦艇や航空機による偶発的で軍事的な衝突を避けるための緊急連絡体制を日中双方が共有することは危機管理上、不可欠であるから、これは事務レベルで具体的な調整を進めていけばよい。

 しかし、肝に銘じておかねばならないことは、執拗(しつよう)に威嚇と挑発を繰り返しているのは中国軍であって、海自護衛艦に中国海軍のフリゲート艦が火器管制レーダーを照射したり、非武装の海・空自偵察機に中国空軍戦闘機が異常接近した事件に対する日本政府の抗議に、中国政府はいずれも「日本側の一方的な言いがかりで、日本側の捏造だ」と、嘘八百を並び立て反論し、剰え、逆に猛抗議をして絶対に自国の非を認めないことだ。

 「兵とは詭道(きどう)なり」(戦(いくさ)とは騙(だま)かすこと『孫子』)とあるように、中国は譎詐権変(きっさけんぺん)の計策で相手を欺くのが常套(じょうとう)であることに留意し、決して術策にはまらぬよう細心の注意が必要だ。そうでなければ、中国を利するだけの連絡メカニズムになってしまい、その実効性が疑われるものになろう。

発言と裏腹の南沙工事

 APECの間、習近平国家主席は会談や会見で「中国はすべての隣国と仲良く付き合いたい」とか「中国は平和発展の道を進む」などと神妙な顔付きで発言していたが、22日に国際軍事専門誌IHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーが「中国、南沙に滑走路を建設か」と人工衛星写真を公表した。先月、西沙の滑走路拡張工事完了との報道を耳にしたばかりである。まさに「隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望む」で、中国の欲望は限りがない。

 中国にはゆめゆめ欺かれぬよう、惑わされぬよう怠りなく、万全の構えで対抗していかねばなるまい。