学力向上策の成果 池上氏のPISA分析的外れ


論旨不明な朝日社説

 昨年末に発表になった2012年国際学習到達度調査(PISA)で、日本の子供の学力が向上傾向にあることが鮮明になった。1990年代末から続いていた学力低下の背景には、「ゆとり教育」があり、逆に学力向上はゆとりから基礎学力重視に転換した成果とみて間違いない。PISAの結果を報じた昨年12月4日付の「世界日報」は、社会面で「『脱ゆとり』が奏功」と見出しを立てていたが、それが妥当な評価というものだろう。

 では、ゆとり教育を支持してきた「朝日新聞」が脱ゆとり教育の成果をどのように報道しているのか、と同日付の社説を読んだところ、「さすがは朝日!」と、妙に納得してしまった。これまでゆとり教育からの転換に疑問を呈する社説を何度も掲載してきたのだから、その主張の間違いを認めるのかと思えば、そうではない。脱ゆとり教育についての評価には触れずに、「子どもの力を信じよう」と、論旨不明の社説を掲載していたのだ。

 その社説は冒頭で、「日本の高校1年生は、読解・数学・科学3分野とも、順位と得点が向上した。課題だった学力の上下格差も、改善の傾向にある」と一応事実を認めていた。しかし、「学力向上策の成果もあるかもしれないが、そもそも『不振』とされた時期でも、数学や科学は先進国の中では上位だった」と、学力低下そのものがなかったと言わんばかりだった。

 そして、最後に「勉強ができない、だらしないと怒鳴られ続けて、できるようになる子は少ない。どうすれば子供は自信を取り戻し、力が伸びるか。まず大人が色眼鏡で見ないことから心がけたい」とあった。いったい何が言いたいのか、首をかしげた読者が多かったことだろう。

 PISAに関する記事で、さらに疑問だったのは、同紙12月20日付「池上彰の新聞ななめ読み」だ。03年、06年の調査結果で大幅に順位を下げたのは、ゆとり教育の影響とした「読売新聞」の記事を取り上げて、ゆとり教育が始まったのは02年度からで、06年調査はともかくとして、03年調査まで「『ゆとり教育』のせいにするのはいささか乱暴です」と批判した。

 だが、池上氏の指摘は的外れである。確かに、ゆとり教育の理念を本格的に進めるための学習指導要領が導入されたのは02年度からだが、実質的なゆとり教育はそれよりかなり前からスタートしていたのである。したがって、03年の調査を受けた生徒を「『ゆとり教育』をわずか1年受けただけ」とするのは短絡的すぎる。

 一方、池上氏は「『脱ゆとり教育』が中学校で全面実施されたのは12年度からでした。12年に成績の良かった生徒たちは、『脱ゆとり教育』を受けていない」としたが、これも表面的な見方である。学習指導要領だけを見れば、脱ゆとり教育のスタートは12年度からということになるが、ゆとり教育から基礎学力重視への実質転換、つまり脱ゆとり教育は、ゆとり教育の本格スタート直前、遠山敦子・文部科学相(当時)が行った「学びのすすめ」の発表によって始まったのである。

「ゆとり」離れせず

 結局、池上氏は脱ゆとり教育と学力向上は無関係であり、「むしろ『ゆとり教育』導入と同時に始まった『総合的な学習の時間』の成果が出たという評価も可能」と分析した。つまり、学力向上は、脱ゆとり教育ではなく、ゆとり教育の成果であると示唆しているのだが、筆者からすれば、同氏の分析がいまだにゆとり教育と決別できない朝日の報道姿勢と重なって見えるのである。