「特定失踪者」家族らが浦添市で集会を行う
政府に拉致認定と早期救出を求める
北朝鮮による拉致の疑いがある「特定失踪者」は全国に868人、沖縄県内に33人いることが拉致被害者支援団体が警察庁に対して行った情報公開請求で分かった。沖縄県は人口比で全国2位の多さ。こうした状況を受け、特定失踪者の早期救出を求める沖縄集会が3日、浦添市で行われ、失踪者家族や議員らが失踪者の拉致認定をするよう政府に求めた。(那覇支局・豊田 剛)
沖縄県と6市で意見書採択
糸満市では共産党が反対
「忘れないで特定失踪者」全国一斉活動と題する沖縄集会は昨年に次いで2回目の開催。昨年の集会では失踪者の家族らが涙ながらに訴え、仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)県知事(当時)に要請した。そのおかげで、県内では日本人の拉致問題の早期解決を求める意見書が次々と採択されている。
県議会は今年3月27日、「沖縄県出身の特定失踪者の救出に関する陳情」を採択。①担当部署を県庁に置く②県のホームページを使って広報活動をする③県主催の大会を開催する――ことが確認された。花城大輔県議は「実際は、県は当事者意識の低い対応しかしておらず、忸怩(じくじ)たる思いだ」と述べた。
県に先立ち、3月20日に糸満市議会が陳情を可決したが、決議では共産党は反対し、社民党は退席した。自らの親戚が特定失踪者だという新垣(しんがき)新(あらた)議員は、「家族は名前を公表すれば殺されるかもしれないという恐怖の中で生きてきた」と涙ながらに語り、陳情に理解を示さない革新政党は「沖縄、そして、国を悪くした」と強調した。
6月に意見書を可決した石垣市議会の友寄(ともよせ)永三議員は、翁長(おなが)雄志(たけし)知事が9月にスイス・ジュネーブで開かれた人権理事会に参加したことについて、「本来ならば拉致問題と尖閣諸島の主権問題を訴えるべきではなかったか」と述べ、知事の政治的スタンスに苦言を呈した。
6月にはこのほか、宜野湾、豊見城の両市で意見書が採択され、最近では9月3日に浦添、28日に沖縄の両市が採択した。
集会では、主催者を代表して仲村俊子さんがあいさつ。「拉致は病気で死ぬよりもつらい。待てど暮らせど娘が帰ってこない横田夫妻のことを考えると胸が痛む」と述べ、「日本にもスパイ防止法が必要だ」と訴えた。
引き続き、「忘れないで特定失踪者」全国一斉活動実行委員会理事の藤田隆司さんと米国出身のタレントで弁護士のケント・ギルバート氏が講演した。
藤田さんの兄・進さんは1976年に突然行方不明になり、失踪してから28年たった2004年、脱北者である北朝鮮人の持っていた拉致被害者の写真が進さんと一致していることが鑑定の結果明らかになった。
藤田さんは「鑑定結果が出てから11年たった今でも政府は拉致被害者として認定していない」と説明。拉致は最大の人権侵害で日本への主権侵害。北朝鮮は人生、自由、国民を平然と奪う行為をしている。絶対に許すことはできない」と訴えた。
また、日本以外にも韓国、中国、マレーシア、レバノンなど12カ国でも拉致された可能性があることが北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)の調べで分かっている。
講演後、藤田さんは沖縄の特定失踪者の家族3人を紹介した。3人は行方不明になったいきさつを話しながら、政府と県が失踪した家族をいち早く拉致被害者と認定し、真相解明と救出に本格的に取り掛かるよう求めた。
ケント・ギルバート氏講演要旨
北朝鮮の拉致方法は米の奴隷制度と同じ
大学生として日本語を専攻していた1975年、沖縄海洋博覧会の開催に伴う仕事のため、沖縄に滞在していた。この頃から、沖縄から行方不明になった事例が多かったのだと痛感している。拉致も特定失踪も事実確認が難しい。
北朝鮮に拉致された疑いのあるアメリカ人は1人いる。この人物はデービッド・スネドン氏で、韓国に留学し、韓国語と中国語が話せた。中国に行った2004年、突然消えた。米国の歴史の中で、中国に行って行方不明になった人は彼を除いて一人もいない。それだけに拉致であることは明らかだ。
この事例について米政府の北朝鮮人権委員会が報告書を出し、日本語でも出版された。米政府は拉致認定をしていないが、大きな関心を持って調査した。衛星写真を見ると、日本人拉致被害者らしき人々の所在地や仕事など収容状況が分かったが、スネドン氏の消息をつかめなかった。
北朝鮮の拉致のやり方は、強い部族が弱い部族の人々を拉致して白人に売り渡していたアメリカの奴隷制度と同じやり方だ。共産主義は一種の奴隷制度で完璧な人権侵害。国連はもっと真剣にこの問題に取り組むべきだ。
北朝鮮の拉致問題を扱う6カ国協議は難航した。米政府から見れば、北朝鮮の核兵器開発をやめさせることが最優先事項で、拉致問題は二の次になっているのは事実だ。