「辺野古移設絶対反対」だけ、翁長那覇市長の沖縄知事選出馬表明

普天間の危険性除去に言及せず

 那覇市長の翁長(おなが)雄志(たけし)氏(63)が13日、那覇市民会館で行った、共産党、社民党、社会大衆党(社大党)など革新政党、労組、革新系市民団体の推薦を受けての沖縄県知事選(10月30日告示、11月16日投開票)への出馬表明記者会見は1740人(主催者発表)集まる異例の形となった。すでに出馬表明し3選を目指す現職の仲井真弘多(ひろかず)知事(75)が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の危険性除去のための解決策として名護市辺野古沖合の埋め立てを承認したことに対し、辺野古移設には「オール沖縄」で「絶対反対」を表明したものの、現在遂行中の移設工事の中止や辺野古以外の移転先など具体的解決策についてはほとんど明示しなかった。しかも、普天間飛行場の危険性除去には一切言及せず、翁長氏の出馬は「知事になるための、革新特有の反対のための反対でしかない」との見方が大方だ。(那覇支局・竹林春夫、豊田 剛)

埋立「承認撤回」を合意書で削除

「辺野古移設絶対反対」だけ

記者会見で県知事選の出馬表明をする翁長雄志那覇市長(中央)=13日、那覇市民会館

 翁長氏の13日の記者会見は、10日の市議会本会議での出馬表明に続くもの。翁長氏は本会議で「これ以上の(基地の)押しつけは沖縄にとって限界で、地元の理解を得られない移設案を実現することは事実上不可能だ」と述べ、普天間飛行場の辺野古移設に反対を表明。「沖縄が岐路に立つ今、私の力が必要との声があるなら、応えるのが政治家としての集大成だ。本日、出馬を決意する」と仲井真弘多知事を意識した決意表明だった。しかし、辺野古移設の原点である普天間飛行場の危険性除去についてはほとんど言及しなかった.”

翌11日の本会議で、久高友弘議員(自民党改革無所属)が辺野古移設の中止、辺野古以外の解決方法を市長に問いただしたが、「(移設先は)国民全体で考え、基地は公平に負担すべきだ」と曖昧な答弁、移設先を「国外、最低でも県外」と公約に掲げながら辺野古に回帰した鳩山由紀夫元首相の弁明を彷彿(ほうふつ)とさせるものだった.”

那覇市民会館で開かれた記者会見は、共産、社民、社会大衆党の革新系国会議員のほか、革新系市民団体代表ら約200人が壇上に上がり、会場に1500人以上の支持者が集まった.”

「今後100年も置かれ続ける新基地を絶対に造らせてはいけない」。翁長氏はこう語り、米占領下の1956年、強制接収された土地を一括で買い上げるという米軍の勧告(プライス勧告)に対して、保守、革新を超えて反対した「島ぐるみ闘争」を引き合いに「沖縄の政治の原点はここにある」と述べ、「オール沖縄」で「辺野古の新基地建設に反対しよう」訴えた.”

議会や記者会見で翁長氏は「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティー(存在証明)」という抽象的な言葉を繰り返して、辺野古移設反対に向けて県民を誘導、票集めに熱心だが、辺野古移設については、県民の間で推進と反対の意見が二分しており、「オール沖縄は崩壊している」(自民党県議)ほか、「アイデンティティー」についても具体的な説明がなく、「本土の『日本人』に対して『沖縄人』という間違った対立構造をつくろうとしているのではないか」と疑問視する人も多い.”

将来の沖縄にとって重要な振興策については、「基地の見返りの振興であってはならない」と強気な姿勢を見せる一方で、基地問題では政府と対決しながらも振興策はしっかり要求する方針を示した。「翁長氏が、たとえ知事に当選しても、仲井真知事と違って、革新政党を背景に安倍晋三政権とどれだけ交渉できるかは未知数だ」(自民党県連幹部)  記者との質疑応答では、普天間飛行場の危険性除去の方策について質問が集中したが、翁長氏が、革新諸派との事前合意書を「辺野古埋め立て承認撤回」から「辺野古新基地を絶対につくらせない」に変更、「承認撤回」を削除したからだ.”

翁長氏は、「知事選に勝って、承認そのものを、私たち県民の力で取り消して、取り消し・撤回の在り方を、みんなで力を合わせてやれるように頑張っていきたい」「今、具体的に、ああするこうするとは私一人の都合では申し上げられない」と説明した.”

これに対し、本土の新聞記者が「政府は選挙結果にかかわらず移設計画を進めていく方針だが、絶対につくらせないということをどのように担保するのか」と質問すると、会場から「やめろ」などの野次が飛び交った.”

翁長氏も顔色を変え「(沖縄では)普通の人がそのような質問をすると大変失礼になる」と語気を荒げた。「数多くいる仲間と相談していい形でやっていく」と言葉を濁したが、具体策については何一つ示さなかった.”

本土の記者は「このような記者会見は前代未聞。自由な質疑応答ができる環境ではない」と憤った。「翁長支持の左翼集会に記者会見が利用されたようだ」と別の本土の記者.”

翁長氏は、かつて自民党県連幹事長を務め、前回の知事選では仲井真知事の選対本部長を務めた。ところが、オスプレイ配備や辺野古移設をめぐって県連と亀裂が生じた。知事選では自民党を除名された一部の那覇市議や社民、共産、地域政党の社会大衆など県政野党5団体のほか、一部の経済界の支持を受けている.”

自民党県連幹部は、「知事選のための翁長支持で、翁長氏が落選しても応援するかどうか分からない。自衛隊反対、安保反対の共産党、社大党が安保堅持の翁長氏を推薦するのは矛盾している。革新系の一般県民の中には、翁長支持に疑問を持つ者が多いと聞いている」と革新諸派の翁長支持に疑問を呈した.”

仲井真氏は自民党の推薦を得ており、有力経済団体、保守系諸団体から推薦が集まっている。知事選では、下地幹郎元郵政民営化担当相(53)が出馬表明、無党派層の獲得を目指し、地域政党そうぞう、維新が勝手連の立場で支持する。また、翁長氏が埋め立て承認撤回を公約に掲げないことを不満とする喜納昌吉民主党沖縄県連会長(66)が出馬の意欲を示している。