龍柱、至聖廟建設計画進める那覇市

市の玄関口の中華街化に住民警戒

 昨年末、仲井真弘多(ひろかず)知事が名護市公有水面埋立申請を承認した。これにいち早く遺憾の意を表明したのは翁長(おなが)雄志那覇市長であり、抗議決議を採択したのは那覇市議会だ。政府や県との対立姿勢を強める那覇市では、市の玄関口に当たる若狭地区に今年6月にも中国的なデザインの「龍柱」が建立される。さらには、すぐそばの松山公園には孔子廟(びょう)や明倫堂などから成る至聖廟を核とした中国との交流施設の整備が進められており、地域住民は「中華街ができるのでは」と警戒感を強めている。
(那覇支局・豊田 剛)

久米崇聖会に便宜提供の疑い

市民団体が住民監査請求へ

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松山公園連携施設の整備が進められている旧久米郵便局跡地には説明板が掲げられている=2月10日、那覇市久米

 翁長市長は、2012年11月11日の那覇市長選で、従来の支持基盤である自公に加えて民主党が推薦。「保革を超える」と強調して4選を果たしたが、4期目の翁長市政は反政府および反米の言動が目立つ。

 昨年1月、「オール沖縄」の声と称して、米軍新型輸送機オスプレイ配備反対のための東京要請行動では実行委員会の共同代表として反対運動を主導した。その一方で、中国寄りの姿勢が顕著だ。それを象徴するのが、一括交付金を使って建設される那覇・福州友好都市シンボルの「龍柱」だ。

 龍柱は、那覇港に寄港した大型客船から下船した目の前の交差点に立つ予定。当初4月の完成予定だったが6月以降にずれ込むことが予想されている。

 延期の理由について市当局は「諸手続きに時間がかかった」としている。那覇市議会では「住民に説明していない」と、龍柱建立に反対意見も出たが賛成多数で可決。さらに、国からの一括交付金を使って中国的なシンボルを建立することに疑問を抱く市民・団体などが反発したことも影響したとみられる。

 市当局は、「竜は琉球の文化でもあり、中国のシンボルだとは考えていない」と説明する。ところが、龍柱の事業計画には、「新たな玄関口に設置するシンボルモニュメントにふさわしいものとして、那覇西地域の歴史性を活かし、中国にゆかりがあり、広く一般的にも馴染みのある龍柱をテーマとしました」と明記。龍柱の素材および加工は中国に発注している。

 2体の龍柱が建立される道は、県庁、そして、最大の観光地である国際通りに続く主要道路だ。途中、右側に至聖廟と中国庭園「福州園」が見える。

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翁長雄志那覇市長

 那覇市は、地域一帯を「松山公園連携施設」と称して整備を進めている。翁長市長のもと発表された「平成15年度那覇都市計画マスタープラン」の「松山公園周辺土地利用計画」では、久米人や久米村の歴史的重要性を説明した上で、「歴史公園」というコンセプトの下、住民や観光客との交流センターや学習施設なども設置する計画を発表した。中核施設となるのが至聖廟で、久米36姓(福建省から久米村《現在の那覇市久米周辺》に移住した人々の総称)の末裔(まつえい)で構成される久米崇聖会(すうせいかい)が管理運営している。

 2012年に策定された連携施設の基本計画について、こう記されている。

 <「松山公園と福州園の間を通る市道久米若狭線の国道58号から臨港道路までを「新久米村の大道(竜身=「気」の通る龍脈)」と位置付ける。そして、大道を中心として周辺の徒歩で散策できる範囲を「新久米村街」として位置付け、地域住民と協働し雑貨やお土産品を扱う店舗や食事を提供する料理店等が立ち並ぶ「賑わいのある魅力的な地域」となることを願い、その新久米村の要(拠点)となる松山公園連携施設を地域の中心と位置付け整備する>

 那覇市の担当課は、「中華街を作る計画はない」と否定するが、計画書を読めば地域一帯が中華街になる懸念は払拭(ふっしょく)されない。尖閣諸島の領有権をめぐる日中の緊張関係は、マスタープランが作成された2003年とは比較にならないほどの緊張関係にあるにもかかわらず、計画は見直されることはなかった。

 市は観光効果に期待を示す。

 <近年は、大型客船の寄港や数次ビザ(中国人個人観光)などにより、アジア(台湾・韓国・中国)からの入域観光客数の増加、空港からのアクセスの利便性などから、誘客を見込めます。久米村(クニンダ)の歴史性、文化性、精神性を活かし、観光客との友好を深め、沖縄文化の発信・交流の拠点となるような施設を目指します>

 住みよい那覇市をつくる会の金城テル代表は、「中国が軍事拡大し、尖閣諸島だけでなく沖縄本島を自分のものだと主張している時、なぜわざわざ中国のシンボルを作るのか」と抗議。中国の施設ができて、中国人観光客が多く訪れることで、中華街が造成されるというシナリオに対して市が無警戒なことに怒りを隠せない。

 同会は、「市が松山公園用地の取得と整備に12億円余を支出しているが、市が購入した公園用地の約3割を久米崇聖会に無償で貸与。しかも、契約も交わさずに事実上、無期限で借用させている」と指摘。「これは特定団体に便宜を図っていると言わざるを得ず、不当な支出だ」とし、近日中に住民監査請求する方針を固めた。