尖閣所在の地で再び保革一騎打ち 石垣市長選、来月2日投開票
中国が領海・領空侵犯を繰り返す尖閣諸島が所在する石垣市の市長選が3月2日投開票される。石垣島は南西諸島防衛の要であり、国益にも直結する大事な選挙だ。現職の中山義隆氏(46)=自民推薦=と前職の大浜長照氏(66)=無所属=がこれまでに出馬表明しており、前回2010年の市長選と同じ顔合わせによる一騎打ちとなる公算が大きい。保守系の中山市長が国、県とのパイプで改革を進めていくのか、それとも長年の革新市政に後戻りするのか。(那覇支局・竹林春夫、豊田 剛)
中山市長、国・県とのパイプ強化へ
大浜氏、革新色隠し「市民党」で
石垣市は本土復帰以来、現在の中山市長の4年と20年前の保守系市長1期4年の8年間以外は、32年間革新市政が担ってきた革新王国だ。
前回は、若手の中山氏(当時、石垣市議)が、4期16年革新市政に君臨し5期目を目指した大浜氏に挑戦、自民、公明の連携と若者層の支持を得て1万6421票を獲得、5014票という大差で破った。社民、共産、民主、社大から推薦を受けた大浜氏には、労組との癒着による長期政権がもたらした市政の閉塞(へいそく)感に加え、インターネットのブログで暴露された婦女暴行疑惑が決定的な打撃となった。
「今回は前回に比べ、あまり盛り上がっていない」
両陣営の選挙事務所を訪れて、担当者から聞かされた共通の声だった。
両陣営とも昨年12月末まで候補者選定に手こずり、本格的な選挙戦に入ったのは1月に入ってからだったからだ。
中山陣営は、市議会議長の伊良皆高信氏が出馬意向を表明、自民党石垣市支部長の砂川利勝県議と党本部が「一本化」の調整に入り、12月28日に出馬を断念、中山市長が正式に出馬を表明したのが12月29日だった。
大浜陣営は、候補者選びが難航、自民党で元市議会議長だった入嵩西(いりたけにし)整(ひとし)氏を取り込み、沖縄本島国頭村で村立東部へき地診療所長をしていた前市長の大浜氏を「革新市政を取り戻してくれ」と説得。これに応じた大浜氏は12月30日、市内で記者会見し、「混迷している石垣をベテランに任せてほしい」と正式に出馬を表明した。
両陣営は1月に事務所開きをして選挙活動に入った。中山選挙事務所では、安倍晋三総理や石破茂幹事長、国会議員の国場幸之助氏、宮崎政久氏、島尻安伊子氏らの「為書き」の札が壁一面に貼り巡らされているほか、中山市長や市長夫人、それに後援会会長、事務局長らが出入りして、顔の見える選挙活動だった。
これに対して、大浜選挙事務所は、数人の支持者がチラシ折をしている程度で、「為書き」も参院議員で沖縄社会大衆党党首の糸数慶子氏一枚だけだった。しかも、政党名はない。「われわれは中央の政党に頼らない、保守も革新もない『市民党』として草の根運動でやって支持者を集めています。候補者も地域回りで忙しい」(大浜陣営)という。
社団法人八重山青年会議所が中山氏と大浜氏の「石垣市長選挙立候補予定者公開討論会」を計画したが、中山氏は承諾したものの、大浜氏が「公平、公正性が担保できるか不安」との理由で不参加の意向を示し、「討論会」は急遽(きゅうきょ)中止になった。
大浜陣営は前回敗北を教訓に、革新イメージを払拭(ふっしょく)するために「子どもたちも、若者も、高齢者も笑顔かがやく石垣市をいっしょにつくりましょう」をスローガンに「市民党」を前面に打ち出す作戦だ。
支持母体の「さわやか市民の会」の共同会長に保守系の入嵩西整元市議会議長が就任したのもその一つ。その一方で「革新市政を取り戻せ」と元公務員や元教職員それに労組、女性部がローラー作戦を展開。「過去4期の実績を抜きにして、どぶ板選挙に徹っしている」(大浜陣営、石垣市選出の高嶺善伸県議)。
また、自衛隊について、現職時代に「人を殺すための国家の物理的な装置」と発言したあと、「全部撤回する」と陳謝した大浜氏。出馬表明では「自衛隊は不要と言ったことはない。人命救助・災害でなくてはならない存在」と述べ、現職時代のカラー打ち消しに躍起になっている。しかし、自衛隊の先島配備は「あえて小さな島に持ってくる必要があるのか」と本音を見せた。
一方、今回は追われる立場になった中山陣営。前回と違って、市長が公務中には選挙活動ができず、まだ本格的な運動を展開できない危機感が漂う。
「1期4年でマニフェスト(公約)のほとんどに着手できた。2期目もスピード感をもって市民目線の政治をしたい」
中山市長は再選に意欲を燃やす。
昨年、新石垣空港が開港し、昨年の入域観光客数は過去最高となる約93万人を記録。「日本一幸せあふれるまち石垣市」をスローガンに、「島のトップセールスマン」として観光など産業振興に努めた手腕は高く評価されている。
「ずっと革新市政だった石垣市は保守市政の宮古島市と比べ、空港などのインフラ整備の面で30年遅れている。国や県の事業に反対勢力が強かったからだ。絶対に元に戻してはいけない」
東田盛(ひがしたもり)正(ただし)後援会長は4年間で築いた県と国とのパイプを強めることが市に必要なことと強調する。尖閣諸島の防衛、尖閣諸島沖での安全な漁船操業の確保には、国とのパイプは欠かせない。
大浜陣営の選挙活動について、砥板(といた)芳行市議は「相手は『自公対市民の戦い』と言うが、私からすれば『市民対自治労など労組、公務員との戦い』だ」と述べ、情報戦で負けないよう気を引き締めた。「投票率が70%を下回れば厳しくなる」と砥板市議。大浜陣営が共産党を先頭に自治労、教職員組合、関係者など組織固めが進んでいるからだ。それには、前回同様、公明八重山支部との連携がとれるかどうかが要となる。
両陣営は10日に政策を発表。21日には、総決起大会を同時間に行う。自公協力で勝利した東京都知事選挙。中山陣営は自公の風を石垣市に呼ぶことができるか。告示日は23日。