沖縄でシンポ、自然災害対処で米軍と地域社会の連携が重要

シンポジウム「日米同盟マネージメント」を開催

那覇市で日米の専門家らが討議

 多くの離島を抱える沖縄で大規模な地震と津波が発生したらどうなるのか。東日本大震災の教訓として、大規模災害の対処は多国間協力と事前の準備の必要性が指摘されている。こうした中、公開シンポジウム「日米同盟マネージメント―在日米軍との自然災害対処協力」(主催:特定非営利活動法人沖縄平和協力センター=OPAC)がこのほど、那覇市で開催され、米国と日本の研究者らが災害に備えての日米の協力体制強化や備蓄基地整備などについて議論した。島嶼(とうしょ)国家である日本にとって、国民の生命と安全を確保するためには政府、各自治体はそれぞれの災害対策と同時に、即応能力の高い米軍との協力関係が不可欠だ。(那覇支局・豊田 剛)

救援ハブ基地の設置を

県に的確な「受援力」必要

自然災害対処で米軍と地域社会の連携が重要

森本敏・元防衛相

 今月10日、那覇市の県立博物館・美術館で行われたシンポジウムでは、元防衛相の森本敏氏が「日米災害対処協力」と題して、日本が必要とする米国との災害対処協力の在り方について基調講演した。

 森本氏はこの中で、「阪神淡路大震災や東日本大震災などの大規模災害で甚大な被害を受ける地域は人口が密集し産業が集積している低地・沿岸地域である」と解説。その上で、「軍事的に似通った機能を持つ日米両国は昨今、自然災害が多いアジア太平洋地域に対する協力活動および災害訓練に従事している」と自衛隊と米軍との協力体制の進捗状況を説明した。

 例として、2011年の東日本大震災における「トモダチ作戦」での日米協力の実績を踏まえ、昨年のフィリピン大型台風被害では「多国間協力において日米両国が中心的役割を果たした」と述べた。

 島嶼県の沖縄は台風などの自然災害を受ける可能性が高いだけでなく、尖閣諸島(石垣市)領内での不測の事態や日米安保条約に基づく在日米軍の存在を考慮した上で、「在日米軍と自衛隊と沖縄県庁が緊密な協力関係を構築することは県民の安全確保にとって不可欠である」と結論付けた。

自然災害対処で米軍と地域社会の連携が重要

シンポジウムに参加した上杉勇司氏(右端)をはじめとするパネリスト=10日、沖縄県立博物館・美術館講座室(那覇市)

 続くパネルディスカッションでは、日米の安全保障専門家らが日米の災害協力の可能性について意見を交換した。

 在沖米海兵隊外交政策次長のロバート・エルドリッジ氏は「トモダチ作戦」の宮城県気仙沼市での活動を紹介。「在日米軍は、自衛隊だけではなく、地域社会との連携が重要だと実感した」と報告。最近では、在日米軍と静岡県や高知県など大規模地震のリスクが高いとされる自治体との連携が進んでいるという。

 エルドリッジ氏は、「大規模な災害の場合、米軍が自治体と直接連携することも必要であり、支援体制の確立には米軍との橋渡し役になるキーパーソンの存在が不可欠だ」と事前の渉外ルートと日米協力関係構築努力の重要性を強調した。

 これに対し、拓殖大学教授で海外事情研究所所長の川上高司(たかし)氏は、東日本大震災発生時における民主党政権の対応の不手際を指摘、「『トモダチ作戦』における国家レベルの調整がうまくいかなかった」と総括。こうした日米間の相違について、「日ごろから文化的ギャップを埋める努力が必要だ」と強調した。

 川上氏は災害対策として、国内に備蓄基地や災害救援のハブ基地の設置を提案。多発するアジア全体の災害に対して備蓄基地が圧倒的に少ないため、「アジア太平洋地域の人道支援にも貢献できる」と期待。災害支援ハブ基地については沖縄に作るのが理想的だと提案した。

 沖縄県の対応としてOPAC理事長で元県知事公室長の府本禮司氏は、県及び市町村が米軍と協定を結んでいる事例として①火災の際の消防機関の相互協力②緊急車両の基地通過(宜野湾市)③災害時における基地への立ち入り許可(宜野湾市、浦添市、北谷町(ちゃたんちょう))――を挙げた。

 災害時における沖縄県、市町村と米軍は少しずつ協力関係を結び始めている。浦添市と米海兵隊は今月17日、津波の恐れがある場合に海岸近くの住民が避難できるよう、キャンプ・キンザー(牧港補給地区)を通過できることを定めた協定を結んでいる。

 しかし、府本氏は『災害時における沖縄県と在沖米軍との相互連携マニュアル』を2002年に県が制定したが、「誰が、何を、どこに」というような「具体性に欠ける」と指摘。

 「いざ震災が起きた場合、このままでは混乱してしまう。電気も水道もガスもすべてストップする。県民全員分の備蓄はない。大規模な津波が発生した場合、(空輸で)唯一使えるであろう普天間飛行場をどうするのか」

 府本氏はこう語り、「物資や急患の搬送、災害時にどの米軍施設が使えるのかなど詳細を詰めていく必要がある」と訴えた。

 沖縄県の今後の対処について、シンポジウムのパネルディスカッションのコーディネーターを務めた早稲田大学国際教養学部准教授の上杉勇司氏は、「大規模災害で沖縄の空港と港が水没すれば孤立化し、沖縄の自助だけでは解決できない。的確に支援を受け入れる『受援力』が必要で、米軍との協力は不可欠だ」と総括した。

 沖縄ではかつて、1771年(明和8年)に大津波が石垣島を襲った。「明和の大津波」と呼ばれるが、当時、宮古・八重山地方で死者・行方不明者約1万2000人が出るという大惨事になった。今回のシンポジウムを通して、約160の島から成る沖縄県は今も、大規模災害に対する対処能力の弱さが浮き彫りになった。

 大規模災害時における県と市町村、そして在沖米軍、自衛隊との盤石な協力体制づくりが不可欠だ。