稲嶺進氏再選で問われる政府・自民党の手腕


名護市長選

辺野古移設作業、市長の権限で一部阻止も

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の辺野古沿岸部(名護市)移設の是非を争点とした名護市長選が19日投開票され、移設反対派の現職の稲嶺進氏(68)=無所属、共産、生活、社民、沖縄社会大衆(社大)推薦=が、移設推進を訴えた前自民党県議の末松文信氏(65)=同、自民推薦=に4155票の差をつけて再選された。稲嶺氏は日米両政府が進める辺野古移設に強く反対しているが、仲井真弘多知事が昨年末、辺野古沿岸部の埋立申請を承認しており、政府の移設方針が覆されることはない。ただ、稲嶺氏が移設に関わる市長権限があるものは全て反対する方針で、政府・自民党の対応が注目される。
(那覇支局=竹林春夫、豊田 剛)

反基地派の妨害拡大懸念

名護市長選、稲嶺進氏が再選

当確を受け、記者会見に臨む稲嶺進氏=19日、名護市の選対本部

 「市民に良識を示していただいた。先頭に立って頑張る」

 午後9時半すぎ、在沖テレビ局すべてで当確が出た後、市内の選対本部に姿を現した稲嶺氏は、開口一番こう述べた。

 昨年5月に再選を目指し出馬を表明した稲嶺氏は選挙前から態勢を整え、選挙活動では共産党と自治労を主体に社民など革新勢力による組織戦を展開。一部の保守層や自主投票とした公明党支持層からも一定の票を得たようだ。

 稲嶺氏は再選後、「新しい基地は誰も望んでいないし絶対に許さない。埋め立てを前提にした協議や手続きは、全て断る」と述べ、今後、政府が進める移設作業を市長権限で阻止することを改めて表明した。

 辺野古沿岸に違法テントを張り座り込み活動を続けるヘリ基地反対協議会の安次富浩代表委員が「知事を退任させるぞ」と叫ぶと、支持者らは異様な雰囲気で拍手を送った。

 一方、敗戦を確認した末松氏は「新しい名護市づくりに取り組めると思ったが、全く残念だ」と無念さを表した。しかし、辺野古移設については「(市が)いったんは受け入れた案件であり、(政府は移設を)進めていただきたい」、「移設先(辺野古)の人々は今も受け入れの姿勢に変わりはない」と述べ、移設推進を政府に期待した。

 末松氏は国と県と連携し、再編交付金を活用した名護市づくりに取り組み、基地ゆえの不毛の対立に終止符を打とうと訴えた。自民党本部から石破茂幹事長、小泉進次郎青年局長らを投入し、末松氏の政策実現を全面的に支援することを約束したが、市民に浸透しなかった。出馬表明が10月末まで遅れ、さらに、島袋吉和前市長との一本化作業が12月末までずれ込んだことで、「選挙戦に出遅れた影響は否めない」(自民党県連幹部)。

 普天間飛行場を抱える宜野湾市の佐喜真淳市長も末松氏の打ち上げ演説会で、比嘉鉄也氏、岸本建男氏(故人)、島袋吉和氏の歴代3人の市長が苦渋の選択として辺野古移設を受け入れてきたことに感謝の意を表明、末松氏に敬意を表したが、名護市には届かなかった。

 稲嶺氏当選を知った仲井真知事は「名護市の有権者の意向だから、影響はある」としながらも「もう(埋立を)承認しましたからね。今からどうこうというのはできないんじゃないですか」と、見直しの可能性を否定した。

 政府の埋め立て申請書などによると、基地建設に伴う市長の許可や協議が必要な手続きは、①作業ヤード設置のための漁港使用許可②キャンプ・シュワブ内への水道敷設③資材搬入のための道路使用許可④飛行場施設への燃料タンク建設――など約10項目ある。

 移設問題の是非を明確にした選挙は1997年の名護市住民投票以来、17年ぶり。稲嶺氏は「日本政府は辺野古に固執しているが、県内移設はダメというのが県民の総意」と訴えたが、推進派の末松氏が獲得した1万5000余の票は重い。

 今後、稲嶺氏再選により反対派が勢いづくのは確実で、外交と防衛は国の専管事項であり、知事の承認があってあからさまな妨害はできないものの、反基地活動家らによる過激な妨害活動で移設作業が遅れることが懸念される。

 移設が遅れれば、普天間飛行場の移設の原点となっていた「危険性除去」が大幅に遅れ、「普天間の固定化」につながる可能性がある。「それこそ、反対派の願いであり、基地闘争で勢力拡大を狙っているのではないか」(宜野湾市民)との声も上がっている。

 政府と自民党は「結果を重く受け止める」としながらも、移設については「影響はない」(首相官邸筋)と作業を進める考えに変化はない。事業主の防衛省も「知事が承認しており、法手続き上、作業は進められる」と埋め立て工事を着実に進めたい考えだ。

 沖縄防衛局筋によると、今月中に埋め立てに伴う調査・設計の業者発注を公告し、入札を経て3月に業者と契約、4月以降に工事予定区域のボーリング調査などを始める。ただ、市長権限が及ぶ範囲の作業については、先行き不透明だ。

 仲井真知事が末松氏を支持したこともあり、2月中旬に始まる県議会では、知事の進退問題、予算や重要法案で野党側が揺さぶりをかける可能性があり、知事の県政運営に影響が出そうだ。4月以降、具体的調査、工事が始まった場合、反対派が実力行使に出ることが考えられ、公務執行妨害的行為に対して知事が排除命令を出すかどうかも注目される。

 今年は、名護市長選をはじめ、尖閣諸島のある石垣市、中部都市の沖縄市などの市長選のほか、市町村議会選挙を控え、11月には県知事選がある。名護市長選で勝利した共産党、社民党、社大党など革新政党が「基地反対」「『オールジャパン』対『オール沖縄』」などを掲げ、政府・自民党と対決姿勢を強めるのは必至で、政府・自民党が基地の負担軽減、振興策を含めどのような沖縄対策を講じるか安倍晋三政権の政治手腕が試されそうだ。

 辺野古移設推進に方向を転換した自民党県連に対し、「県外」を主張し名護市長選で自主投票にした公明県本部が今後の選挙、県議会運営、知事選などで「自公」路線を継続するかどうか、目を離せない。