五輪マラソン札幌に変更を支持し、酷暑期開催には見直し求めた各紙
◆懸念材料だった猛暑
「温暖化の進む世界で、猛暑を免れる開催都市は限られる。五輪の最適な開催時期はいつなのか。今後の検討課題と言えよう」(読売20日付社説)。
来年の東京五輪のマラソンと競歩のコースが札幌市に変更される見通しとなった。国際オリンピック委員会(IOC)が変更案を打ち出したもので、大会組織委員会(森喜朗会長)とIOCが30日から都内で開く調整委員会で正式合意されるというから、事実上の決定である。開幕まで300日を切る中での突然の計画変更は唐突だが、新聞各紙も論調の見出し「札幌変更もやむをえまい」(産経18日付主張)、「選手の健康優先で臨め」(朝日同社説)、「選手の安全優先すべきだ」(毎日同)、「札幌開催は選手第一で準備を」(日経19日付)、「選手の健康考えた『札幌開催』」(読売)が示すように、札幌変更を支持している。
理由が暑さだからだ。昨今の東京の猛暑は特にマラソンや競歩では、選手や観客の健康・安全にとって大きな懸念材料であった。このため、レースの開始時間を早朝に前倒しし、コースの道路を熱の上昇を抑える舗装にするなどの対策を進めてきた。
だが、そうした対策にも限界があることを示したのが中東カタールのドーハで開かれた陸上の世界選手権であった。昼間の猛暑を避け、深夜にマラソンと競歩が行われたにもかかわらず、女子マラソンや競歩で棄権する選手が続出する事態となったのである。
このためIOCのバッハ会長が「選手の健康と安全は常に私たちの関心の中心にある」と札幌変更を薦めたものだ。各紙は「準備を進めてきた関係者には反発や戸惑いがあるだろう。だが優先すべきは選手の健康であり、観客の安全だ」(朝日)、「選手第一の視点から、やむを得ない。むしろ遅きに失した感がある」(日経)として「都や組織委は札幌市とともに、速やかに検討と準備に入ってほしい」(同)と求めた。
◆課題多いが前向きに
札幌市は7、8月の平均気温が東京より5度ほど低く、大規模なマラソン大会運営などの経験も豊富だ。それでも急な開催地変更には課題も山積している。運営予算をはじめコースの設定、東京の発売済みチケットの取り扱い、夏の観光シーズンと重なる中で選手や関係者の宿泊施設の確保、コースの警備などなど。それでも「ここは国を挙げて招致した五輪の成功を、国民全体で願いたい」(読売)、「東京側の無念は察するが、変更もやむなしと、札幌での実施に向けて邁進(まいしん)するしかあるまい」(産経)などと各紙とも似たように前向きに理解するのである。
その上で、今回の出来事を踏まえて冒頭の読売のように、もっと本質的な注文をIOCにつけている。
朝日は「夏季五輪の時期を7、8月とする現在のやり方は限界にきている」とした上で、ずばり「欧米の人気スポーツが手薄なときに開催し、テレビ局からの放映権料をより多く得ようとする考えを続ける限り、同様の問題は必ず起きる」と斬り込む。「東京大会の苦難と混迷を教訓に、持続可能な五輪像を探る」ことを求めた。同様に巨額の放映権料に言及した毎日は「酷暑期の開催が果たして適切なのか、今後議論すべき重要な課題となるだろう」と見通し、日経も「今回の変更を機に、五輪の開催時期のあり方も見直す時ではないか」と迫った。正論である。
◆IOCの独善を批判
一方、産経は「変更もやむなし」と各紙の論調と並んだ上で、今回の決定過程には問題ありとカヤの外に置かれた東京都への配慮をにじませ「開催都市東京や組織委に諮ることなく、重大な変更案を突然発表したIOCの独善ぶりには不快感が残る」と批判。「もっとていねいな運営を」求めた。同時に「事前に何の相談もなく上意下達で実施を迫るIOCのやり方には、組織委員会として、きちんと抗議すべき」だと、けじめを求めた。もっともである。
(堀本和博)