台風の激甚化と被害に治水や避難を再考させられる「日曜討論」など
◆堤防整備不十分の声
今月、台風が連続して東日本に上陸し、各地に大きな被害をもたらした。暴風の激しかった台風15号に続いて台風19号は豪雨で中部、関東、東北地方にわたる広域に水害をもたらし、国土交通省の調べでは7県71河川の堤防で135カ所も決壊した。
自然災害の脅威を肌身で感じるところ、専門家の話は重要だ。20日放送のNHK「日曜討論」は「台風19号甚大な被害/いま何が必要か」をテーマに議論し、包括的に検証や提言を加えていた。
出演したのは、元総務相・前岩手県知事の増田寛也氏、関西大学特任教授の河田惠昭氏、NPO災害看護支援機構理事長の小原真理子氏、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク代表理事の栗田暢之氏、元気象研究所台風研究部長の中澤哲夫氏、国土学総合研究所長の大石久和氏、新潟大学准教授の安田浩保氏。
地震、豪雨などによる近年の自然災害は激しくなっており、防災や被災したときの身の処し方を心得る必要性はますます高まっている。視聴者に直接関わる問題だ。
19号の洪水について大石氏は、「我が国の堤防整備が十分ではなかった。豪雨が非常に激しくなってきているのに、それに応じた整備ができていなかった」と述べた。長野県で千曲川の水害を視察した安田氏は、決壊だけでなく堤防から水があふれた越水も数多くあったとして、「今の堤防が過去に経験した雨から造られている一方で、今回の雨はそれを上回るため起きてしまった災害だ」と報告した。
地球温暖化の傾向から、今回のような台風がまた来る可能性について出演者は異口同音に触れていたが、これまで以上の堤防、放水路、調整池の整備など治水対策の強化は避けられないだろう。「防ぐことに議論の重心を置かないと、さあ避難しようという議論だけでは解決しない問題」(大石氏)だとの認識は、その通りだ。
◆失った避難する文化
ただ、整備に年月を要する上に万全とはいかない。その場合、やはり逃げるしかない。しかし避難について、気象庁職員が自治体に出向くなど情報伝達の重要性を説いた中澤氏の指摘に、河田氏は日本に昔あった避難する文化が高度成長期になくなり、迅速正確に情報を伝えても各人が「関係ないと思う考えをなくさないと改善しない」と訴えた。
また、討論では水に漬かった北陸新幹線車両や高齢者介護施設などが問題にされていた。確かにハザードマップが意味をなさないほど建築物が建てられ、避難にも鈍感になった。19号に気象庁が1958年の「狩野川台風以来」と言っても過去を知らないとピンとこない。
むしろ、戦後昭和期の時代の発展とともに洪水被害もだいぶ解消されたと考えられた。過去の水害を知る古くからの住民が家を建てるのを避けるような低地でも宅地化が進んで新住民が移り住み、地域社会に溶け込まず自宅と職場や店を往復して暮らし、それで何年も過ぎれば安全だと体に感覚が染み付く。
どの報道番組も19号の被害を扱っていたが、20日放送の日本テレビ「真相報道バンキシャ!」では、栃木県佐野市の秋山川の堤防決壊地点から180㍍離れた2階建ての勤務先建物の2階に取り残された男性の話と監視カメラから、車で逃げようとしたものの水かさが増して逃げられなかった様子を映した。逃げ遅れた原因について男性は、「大丈夫だろう」との思いがあったと述べていた。
◆海外の対策も参考に
他の各番組でも被災者目線での映像が多数寄せられていたが、水かさが増してから逃げるのは手遅れと見て取れる。今回、犠牲者が多かったのも水害が起きている中での車の移動によるものだった。地球温暖化で台風が激甚化する以上、ハリケーンの来襲前に会社や学校が休みになる米国のように避難に備え、台風が来る前に安全な場所に移る措置が日本でも必要になったのではないか。
(窪田伸雄)