甚大な台風19号被害でも、なぜか「まず堤防強化を」と語らない各紙

◆最も有効な治水対策

 台風19号による甚大な被害は、日を追うごとに大きくなり、依然として全容が見えない。これまでに確認された犠牲者は12都県で79人、行方不明者12人。約4000人が避難所に身を寄せ、住宅被害は約4万5000棟、堤防決壊は71河川で128カ所に上る(18日現在)。

 今回の被害で改めて気付かされるのは、治水事業の重要さである。被害住宅のうち、ほぼ半数で床上浸水が確認され、被災者は自宅の片付けや水をかぶった畳や家電など大量の災害ごみの処理に追われている。堤防がもう少し高く強度があったなら、被害はもっと少なくて済むのではないかとの思いを強くする。

 地球温暖化の影響などから台風は年々大型化、強さも増して“狂暴化”している。台風までいかなくても、線状降水帯による集中豪雨が「これまでに経験したことのない」記録的なものになることも珍しくない。対策はどうなのか、ということである。

 今回の台風19号災害について、各紙は社説でも読売、日経、東京が2回、産経が3回、朝日、毎日は4回と取り上げ、事態の深刻さ、重大さを裏付けている。ただ、減災に最も有効な治水対策について言及したものは多くなく、言及したものでも、一言触れるだけか、内容がどちらかと言えばネガティブである。

◆ネガティブな朝・毎

 例えば、一言触れた朝日16日付。昨年の西日本豪雨、一昨年の九州北部豪雨、15年の関東・東北豪雨などで多くの犠牲者が出たことを挙げ、「経験したことのない雨にどう対処すべきか」と問うた、その答えとして同紙は「堤防などハードの整備だけでなく、避難訓練の徹底や情報の早期周知など、ソフト面の対策を組み合わせた防災のあり方を、地元自治体を中心に練り直すべきだ」とする。

 これと似た内容だが、毎日16日付は「ハード整備には時間がかかるという現実もある。早めの避難など、減災のソフト面での施策をいっそう充実させる必要がある」とややネガティブである。東京14日付に至っては「堤防のかさ上げやダム建設といったハードに頼る洪水対策は限界を迎えている。抜本的に見直す必要がある」という具合である。

 確かにハードの整備は時間もかかるし、カネも掛かる。しかし、カネは災害が起こるたびにその復旧・復興に相当な額が掛かるわけである。ハードの整備すなわち治水事業の強化は、災害の未然防止は難しいとしても減災を通じて、個別の復旧・復興費用の減少につながる。

 今回の台風19号で言えば、群馬県長野原町の八ツ場ダムを含めた上流のダム群が機能して洪水を回避できたことが参院予算委で取り上げられた。

 八ツ場ダムは、「コンクリートから人へ」をキャッチフレーズにした旧民主党政権によって一時工事を中断させられたダムである。

 堤防やダムなどは平時ならば、無駄や無用の長物でカネも掛かり、景観を損ねるものとして扱われがちである。安倍首相は同予算委での答弁で、「大変な財政的負担もあったが、後世の人たちの命を救うことにもなる。緊張感の中で正しい判断をしていくことが大切だ」と答えたが、為政者として当然の姿勢である。

◆産経も具体策を欠く

 もっとも、自民党政権も特に小泉政権時は、公共事業を財政赤字の元凶として過小評価し予算を減らしてきた。旧民主党政権の「コンクリートから…」はその極端な例で論外だが、求められるのは長期的視野に立った計画的な国土強靭(きょうじん)化である。

 産経14日付は「真の国土強靭化を全力に」との見出しだったが、その「真の国土強靭化」については、台風の大型化、狂暴化が進み、被害が深刻化する傾向が今後も続くとして、「国や自治体は、これに対処すべく、河川の管理を含む真の国土強靭化を急がなくてはならない」と指摘するのみで、具体的な中身についての記述がない。企業も学校も各家庭もそれぞれの備えをと説くばかりで残念だった。

(床井明男)