日本に対する「ヘイト」作品の異様さ問わぬクロ現「表現の不自由展」
◆展示作品は二の次に
脅迫ファクスを含め抗議が殺到したことから、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止になってから1カ月を経た9月5日、NHK「クローズアップ現代+」がこの問題を取り上げた(「『表現の不自由展・その後』中止の波紋」)。
どんな視点から、取材したのかと思い、チャンネルを合わせたが、展示作品の実態を正しく伝えることは二の次にし、視聴者に「日本は表現の不自由な国」との印象を与える番組構成になっていた。
企画展中止問題を論じるとき、まず視聴者に伝えなければならないのは、抗議の対象となった展示物とは、どのようなものだったのか、ということだ。それを抜きにしては、なぜ多くの人が抗議の声を上げたのかは理解できないから、時事・報道番組としては失格である。
芸術祭に寄せられた電話やメールが1カ月で6300件に達したことについて、キャスターの武田真一は「電話突撃、いわゆる電凹(でんとつ)と呼ばれる匿名での抗議活動が広がっていた」と説明した。その後で「一斉攻撃すれば、中止に追い込めるという前提をつくってしまうというのが、ものすごく怖いな」(『表現の不自由展』実行委員会・岡本有佳)、「鑑賞者の見る権利、アーティストの表現する権利、議論する機会も奪われている」(芸術祭芸術監督・津田大介)という関係者の声を伝えた。
この流れでは、視聴者はいやがらせ、または理不尽な抗議活動によって、表現の自由が侵害されたという印象を持ってしまう。果たして事実はどうだったのか。
◆問題の映像は流さず
「表現の不自由展・その後」のホームページによると、「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判などのテーマの作品で、近年公共の文化施設で展示不許可になった作品を展示したのが企画展だ。具体的には、昭和天皇の写真をバーナーで燃やし、その灰を踏み付ける動画、元慰安婦を象徴した「平和の少女像」などで、芸術というよりも政治プロパガンダと言った方がいいものばかりだ。
このうち、番組が最も詳しく伝えたのは「平和の少女像」。実物の映像だけでなく、「反日の象徴として語られていますが、私たちは平和の象徴と考えています」という作者のコメントも紹介した。「戦後最悪」と言われるほど、日韓関係が悪化する情勢から、この少女像が抗議対象の一つであったことは間違いない。しかし、筆者がその映像作品をネットで見て、「これは日本に対するヘイトではないか」と、眉をひそめたのは昭和天皇の写真を燃やす映像だった。
だが、その作品について、番組は「そのほか、昭和天皇の写真をコラージュした作品を燃やす映像などが展示されました」と言葉で説明するだけだった。もし、映像を流せば、その衝撃度から抗議が殺到するのは避けられなかったし、企画展が中止になったのは当然だという意見も寄せられたはず。番組側がテレビでは放送できない内容だと判断したのであれば、視聴者にその旨を説明すべきだったが、それもない。
◆展示の理由検証せず
3年に1度、公金を投入し、公立美術館で開催される芸術祭は、普通の美術展などよりはるかに公共性が高い。そこに公共放送では映し出せない作品を展示すれば、抗議が殺到するのは必然であろう。
家族連れなどが楽しめるはずの芸術祭に、偏った政治的メッセージを込め、鑑賞した人に不快感を与える作品がなぜ展示されたのか。番組はそれを検証すべきだったのだ。それは行わず、コメンテーターに「今の日本では表現の自由はプライベートな場では守られるが、公共の場では制限されるという空気が少し強まっている」(原爆の図 丸木美術館学芸員・岡村幸宣)と言わせて表現の自由への抑圧問題にしてしまったところに、NHKの病理が表れている。(敬称略)
(森田清策)