新年経済で景気重視打ち出した読売、日経は消費増税の影響を軽視
◆好循環実現は不可欠
新年が明けた。「アベノミクス」2年目の今年は、デフレ脱却の兆しが見えてきた段階から、自律的景気拡大の道筋が、4月の消費増税の影響を最小限に食い止め、継続していけるかの重要な年である。
各紙の新年経済社説を見ると、力が入っているのは読売である。読売はまず、政策課題を総合的にまとめた元日の社説「日本浮上へ総力を結集せよ」の中で取り上げ、また安倍晋三首相が6日に伊勢神宮を参拝した後の年頭会見を受けた7日付社説でも、「『好循環』を看板倒れにするな」を載せ、新年経済に強い関心を寄せた。
元日社説では、デフレの海からの浮上には政治の安定と共にアベノミクスの成功が不可欠であり、そのためには「当面は、財政再建より経済成長を優先して日本経済を再生させ、税収を増やす道を選ぶべきだ」と言い切った。
小欄でも度々指摘してきたことであり、もちろん、同感である。二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず、の諺通り、最近の財政再建論は増税か歳出削減かに偏りがちで、そのために、景気拡大と財政再建の両立を図ろうとすると、アクセルとブレーキを同時に踏むことになり、両方の効果を相殺してしまう。結果、景気は良くならないまま、財政健全化も進まず、ずるずると国債残高が増えてしまう。財務省の近視眼的財政再建志向の結果である。
安倍政権が目指すデフレ脱却は、まずは経済成長により税収を増やす経済へ移行させることが目標のはずである。だからこそ、首相が6日の年頭会見で語ったように、経済の好循環の実現が不可欠なのである。
本来なら、企業収益の向上↓賃金・雇用、設備投資の増加↓生産の拡大↓消費の増加↓企業収益という好循環をつくり、自律的景気拡大の段階へ移行できれば、自ずと国内総生産(GDP)は拡大(=デフレ脱却)し、名目GDPが大きくなれば、増税によらぬ税収も増えていく。
◆需要促進求める産経
しかし、まだデフレ脱却途上の段階で、4月の消費増税である。元日の読売社説は、経済対策や2014年度予算では、「家計への支援は物足りない」として、政府・与党に見送られた軽減税率を10%への消費増税と同時に導入する準備を進めるよう促した。
同紙はまた、「民間主導の持続的な経済成長」の実現へ、首相主導での成長戦略や原発の着実な再稼働を訴えた。
似たような論調を示したのは本紙で、本紙はさらに国土強靭(きょうじん)化や2020年の東京五輪を控えた諸施設やインフラの整備・改修などの安定した公共投資は景気下支えの好材料と指摘している。
これとは逆に、特に民間の役割を強調したのは産経である。産経5日付「主張」は、「成長は国力高める源泉だ」との見出しを付け、安倍首相が強調する「強い経済を取り戻す」には、「民間が鍵を握っている」として、「収益力を高めた企業は賃金を引き上げ」、さらに「脱デフレに手が届きそうな今こそ、民間の創意工夫を生かして需要の掘り起しに努めてほしい」と指摘する。
確かにその通りなのだが、7日の主要企業の賀詞交歓会でも、例えばベアでは対応が二分しており、実際に今後どうなるのか。
また、産経は企業の「守りの姿勢」からの転換とともに、こうした企業活動を後押しし、「ものづくり」復活のために欠かせないのがTPP(環太平洋連携協定)の早期妥結や法人税の実効税率の引き下げであると強調。財政当局に対し、「税収減を嫌が」らず、「海外から投資を呼び込むために決断が必要だ」とするが、尤(もっと)もな指摘である。
◆朝・毎社説は扱わず
日経は元日付「変わる世界に長期の国家戦略を」、3日付「産業社会をモデルチェンジする」など対政府、対企業それぞれに向けて経済紙らしい提言を載せている。
ただ、今回も読売や本紙などが示す、消費増税に対する懸念は、同紙からは一向に聞かれない。楽観的なのか、敢えて触れないようにしているのか不明だが、気になるところである。
朝日、毎日に経済に絞った新年社説は今のところない。7日付のこの欄で増記代司氏が、朝日、毎日が俎上(そじょう)に載せていないと指摘した安保や防衛と同様、「強い経済」についても扱いたくないということなのか。
(床井明男)