G7の意義を強調し、米大統領提案のロシア復帰は各紙とも反対で一致
◆1枚だけの首脳宣言
フランス・ビアリッツで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は26日に、サミットの成果文書として首脳間で一致した貿易など5項目をまとめた首脳宣言を発表して、幕を閉じた。当初は見送りの方針から土壇場で一転して取りまとめられた首脳宣言は貿易のほかにイラン、ウクライナ、香港をめぐる地域情勢など5項目を1枚紙に言及しただけの異例の簡素な形式となった。
サミットで議長を務めたフランスのマクロン大統領は、トランプ米大統領と行った共同記者会見で、首脳宣言がこれまでの各国の官僚によって時間をかけて事前調整する方法を採らなかったため、数十枚になってきた文書も1枚だけになったと明らかにした。
このため、首脳宣言では対立や立場の違いが大きい「反保護主義」や気候変動(地球温暖化)をめぐる文言を避け、原則論の内容にとどまった。苦肉の策で何とかまとめたと言えるが、それでも貿易では不公正な貿易慣行の排除のために、世界貿易機関(WTO)の抜本的改革などを求めた。イラン情勢ではイランの核兵器保有の阻止を共通課題とすることで一致した。中国への犯罪人引き渡し条例の撤回をめぐり混乱が続く香港については、香港の自治を認めた中英共同宣言の再確認で「暴力の回避」を求めたことなど意義ある言及もなされているのである。
◆米欧の溝の深さ露呈
G7について各紙(28日付)はどんな論調を展開したのか。
まず首脳宣言として発表されたのが5項目の合意点が列記されただけの1枚の総括文書だったことについて。各紙がそれぞれ問い掛けたのは、その存在意義である。
産経は「トランプ米大統領と欧州との決裂は回避できたが、溝の深さを印象づけた結果となったのは否めない」。読売も米欧の溝が大きいとした上で「議長国のフランスが包括的な宣言作りを断念したのは、亀裂を露呈させないことを優先した結果だろう」と、それぞれ米欧の溝の大きさに言及した。その上で「ロシアや中国という『現状変更勢力』の挑戦を受ける今こそ、自由と民主主義、人権や法の支配といった価値観を共有するG7の存在は不可欠」(産経)と指摘。「世界経済を協議する枠組みは、中国やロシアを含む主要20か国・地域(G20)の存在感が増しているが、G7が果たす役割は小さくない。金融・通貨危機に協調して対応し、世界経済の安定を図る体制を維持しなければならない」(読売)と、これもそれぞれ存在意義を強調する。
首脳宣言に「反保護主義」が盛り込まれていないことや気候変動対策が最初から文書の枠外だったことについて、これらに反対のトランプ氏批判を強くにじませたのは、毎日と朝日である。そして、毎日は「民主主義や法の支配などの価値観を共有し、国際的課題に協調して対応してきた」G7の意義に言及し、「先進国が40年以上かけて築いた協調が空洞化の危機に直面している」ことを訴えた。
「自由と民主主義を尊ぶ理念については、今もG7ほどの発信力を持つ枠組みは見当たらない」と評価する朝日は、今回のサミットでも「イランの外相が招かれ、各国が対話による解決を促した」ことが「米国発の問題の調整に、G7が取り組む実例に」つながるかもしれないことなどを挙げ、成果を希望的に捉えるなど、各紙ともG7の存在意義は共通して認めたのである。
◆露は「原則」共有せず
一方で、トランプ氏が今回持ち出したロシアの復帰については、各紙とも強い反対で一致した。ロシアは2014年にウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合し、G8から放逐された。「ロシアを復帰させてはG7の存在意義を否定することになる」(産経)、「認めるべきではあるまい」「ロシアは、法の支配という国際社会の重い原則を共有していないからだ」(朝日)、「このまま復帰すれば、G7がロシアの『力による現状変更』を認めたことにならないか」(読売)と、ここは異口同音に反対する。当然である。
(堀本和博)