デモ報道多い8月、Eテレ「ひろしま」に感じる日韓のコントラスト

◆香港デモに潜る当局

 この8月、令和初の終戦記念日を迎えたが、テレビの報道番組の話題は文在寅大統領の下の韓国・光復節(日本からの解放記念)、式典そのものより日本への抗議集会などの方が目立った印象だ。

 が、海外のニュースでより深刻なのは、激しい衝突が続く香港のデモや、紛争再発の緊張高まるインドとパキスタンのカシミール問題である。

 18日放送のTBS「サンデーモーニング」は、番組冒頭で香港民主派のデモを扱った。その中で、おそろいの黒Tシャツの民主派デモの中に、警察や中国共産党の国際機関紙「環球時報」記者が黒Tシャツを着て成り済まして潜伏しているのを、他の参加者たちに気付かれ取り押さえられたシーンは、重要な指摘だ。

 司会の関口宏氏は「天安門事件は世界が見ていた」と述べるとともに、「最初は整然と行われたデモがだんだん過激になった」と指摘しながら、「過激にしている者が裏で動いているのではないか」と一言。実力行使の口実をつくる自作自演など中国側の謀略もあり得るだろう。

 福山大学客員教授の田中秀征氏は、デモの原因である、容疑者を中国に移送できるようにする逃亡犯条例改正案は、「5年前の雨傘(運動)や天安門事件よりもっと深刻な問題だ。自分がいても行動すると思う」と述べた。自由に暮らした人々が、人権を失う恐怖に直面している。

◆韓国の「異論」に焦点

 気になる反日デモだが、同日放送のフジ「日曜報道ザ・プライム」は、キャスターの松川俊行氏が韓国を訪れ、日ごろ報道されない現地の“異論”も取り上げていた。新たな「徴用工」像除幕式の集会に向かって、「徴用工」問題終結を訴え「徴用工強制労働の歴史は誤り」と主張する市民団体、文在寅大統領を批判する保守派ユーチューバーの若者たちの意外な人気、反日デモと同じぐらいの規模で行われた反文政権デモなどだ。

 出演した産経新聞客員論説委員の黒田勝弘氏は、「地上波はみんな政府に抑えられている」と指摘し、自身の出演体験から「地上波(のテレビ)よりユーチューブの方が反応がある」と、韓国社会のネット世論の力を認めていた。

 番組はソウル中心部の反日ロウソク集会での新曲「NO安倍ソング」披露の様子を扱ったが、苦笑するほかない。反政権デモばかりしてきた親北朝鮮の運動圏勢力が政権を取り、前大統領らを牢獄に送った。次は他の闘争目標を何か定めないと運動が弛緩(しかん)するので、手っ取り早く日本の首相を“悪役”に仕立てたとしか思えない。ただ、集会参加者が同番組に「日本や日本人は嫌いではない」と述べていたのは幸いと受け止めたい。

◆悲劇そのままの映画

 わが国にもデモの嵐が吹き荒れた時期があった。その一つの朝鮮戦争当時、「教え子を再び戦場に送るな」と叫んだ日教組製作の1953年映画「ひろしま」をNHKEテレは17日0時から放映した。

 10日にETV特集「忘れられた“ひろしま”~8万8千人が演じた“あの日”」で扱っており、占領期の米軍検閲を免れるため原爆体験の作文を生徒が書き、その文集を基にしたという。が、配給会社に断られ上映されなかった。

 60年以上過ぎた今日視聴すると、実に真面目な作品で、戦後8年と時間距離も近く、原爆ドームはじめ破壊された風景が残る。戦時中の雰囲気を知る出演者たちの時代的空気も含めて、非常に気の毒な悲劇の再現は今や不可能と言える資料性の高い内容だ。

 映画のラストは平和の鐘が鳴るドームに集まる群衆と、原爆犠牲者たちが蘇(よみがえ)るイメージと重なるが、そこから感じられるのは生ける者による死者への憐憫(れんびん)、鎮魂、祈りだ。

 現実の核抑止はやむを得ないと思うが、核兵器使用はあってはならない。冷戦も過去になり、むしろ奇跡は、これほどの被害でも反米国家にならなかった日本。敗戦によって民族主義を反省させられた側と、解放され民族主義を取り戻した隣国のコントラストが強すぎる。

(窪田伸雄)