10年半ぶり米利下げに理解示す読売・日経、厳しい批判の東京・毎日
◆景気悪化を防ぐ狙い
米連邦準備制度理事会(FRB)が約10年半ぶりとなる利下げを決めた。これについて、各紙社説の論評を見ると、「景気悪化を未然に防ぐ狙いは分かる。効果を見極め、持続的な成長につなげることが大切だ」と理解を示したのは読売である。
読売(2日付)は、米経済が堅調で株価も最高値圏で推移しているにもかかわらず、「それでも予防的に利下げするのは、経済の先行き懸念が高まっていると判断したからだろう」と指摘。今後は追加利下げをめぐる思惑で金融市場が乱高下することがあり得るため、「混乱を招かぬよう、丁寧な情報発信に努めねばならない」こと、また、世界では利下げが相次ぐため、「バブルが生じないか、監視を強めることが求められる」とした。尤(もっと)もな指摘である。
注文はFRBよりむしろトランプ政権に対してで、約3000億㌦相当の中国製品を対象にした第4弾の対中制裁関税が実施されれば、米国だけでなく、世界全体に影響を与えるとして、「米中両国は発動の回避に向け、妥協点を見いだすべきだ」とした。
日経(2日付)も、景気下振れの懸念は確かに強まっており、FRBが早めに金融緩和に転じたのは理解できるとした。ただ、読売と同様、「最大の問題である貿易戦争を放置したままでは、米経済や世界経済を覆う霧も晴れそうにない」として、トランプ大統領に自制を求める。
同じ保守系紙の産経(2日付)は、FRBのほか、先に欧州中央銀行(ECB)も9月の利下げを示唆し、新興国でも同様の動きがあるなど、世界的な金融緩和への潮流が金融市場に及ぼす影響を「注意したい」とした。
また、特に米国の利下げは円高ドル安を招くことがあるとして、「急激な円高が日本企業を直撃する事態とならないか。円高圧力が強まるかどうかの警戒を怠ってはならない」と強調した。
◆誇張が過ぎる東・毎
これらに対し、東京(2日付)は景気拡大の中の「異例の利下げ」について、「トランプ大統領の圧力が決定に影響したのは間違いない。米中央銀行の独立性は損なわれたと指摘せざるを得ない」とした。トランプ大統領の圧力は否定しないが、中央銀行の独立性への言及については、先の3紙が指摘するように、世界経済の減速化懸念は現実にあり、その政策的対応は特におかしなことではなく、誇張が過ぎよう。さらに同紙が言う「FRBの独立性は大きく揺らいだ。その構図は各国の為政者に金融政策介入への格好の口実を与えるだろう」との懸念も杞憂(きゆう)であろう。
「全く理解に苦しむ措置と言わざるを得ない」と非難の調子が強かったのは、毎日(2日付)である。
同紙は、今回の利下げは「説得力を欠くばかりか、世界経済を不安定化させる恐れがあり、懸念せざるを得ない」とした。
確かに世界経済の不安定化については、主要国がリーマン・ショック以降続けた大規模金融緩和の結果、カネ余りが増長された面があり、一理ある。ただ、米中貿易摩擦が覇権を懸けた側面があることを想起すれば、問題解決が長期化することは十分予想されることであり、その摩擦問題などの影響により世界経済減速化の懸念が生じているわけだから、「説得力を欠く」との指摘はこれまた言い過ぎであろう。
◆《小見出し》
朝日(5日付)は「米国の利下げ/貿易摩擦の尻ぬぐいか」とタイトルこそキツイが、「今回の決定には、トランプ大統領に振り回されるFRBの苦渋が浮き彫りになっている」とFRBの現状を同情的に記す。
また、読売などが円高ドル安が進行した場合に日銀に追加緩和を求めたのに対し、同紙は「実際に景気悪化や円高が進んだ場合に打つ手はあるのか。取り得る政策の利害得失について検討を急ぐ必要がある」としたが、この点は同様な指摘をした産経とともに妥当である。
(床井明男)





