朝日のハンセン病訴訟大誤報、安倍首相への偏見から慎重な分析怠る

◆「取材不十分」と謝罪

 久々に朝日新聞が大誤報を仕出かした。今月10日付朝刊の朝日第1面トップ記事は「ハンセン病家族訴訟 控訴せず/首相表明 人権侵害を考慮」である。前日の9日付朝刊が「ハンセン病家族訴訟 控訴へ/政府、経済支援は検討」だから、連日の第1面トップが前日の「控訴へ」が翌日は「控訴せず」と真逆になったのだ。

 もし政府が9日に朝日報道通りに「控訴」を表明したら、朝日は半日抜きのスクープとなるところだったが、この日午前に安倍晋三首相が「異例のことだが、控訴しない」と表明したことで朝刊の朝日報道は「飛ばし」「チョンボ」となった。

 安倍首相の「控訴せず」表明で、各紙はこの日夕刊トップなどで一斉にこれを報じた。朝日も夕刊と翌10日付朝刊で報じたのだが、夕刊も朝刊もまったく同じ主見出し「ハンセン病家族訴訟 控訴せず」を立てた。そうして誤報を打ち消したが、加えて10日付で「誤報のおわび」の社告を1面に、「取材が十分ではなく誤報とな」った取材の経緯を2面に掲載した。

 栗原健太郎政治部長名による経緯の説明によれば、法務省や厚生労働省、首相官邸幹部は「控訴」の意向で、「あとは安倍晋三首相の政治判断が焦点」だった。そして首相の「我々は本当に責任を感じなければならない」(7月3日の党首討論会)という発言も把握していた。それでも官邸や8日夕の政権幹部への取材から「控訴する方針は変わらないと判断」し、また「ハンセン病関連で首相が9日に対応策を表明する」との情報と、「控訴はするものの、経済支援を検討」との情報を得て、9日付朝刊記事となったが、首相の発言を受け「私たちの取材は十分ではありませんでした」と謝罪したのである。

◆周辺取材だけで判断

 この釈明から透けて見えてくるのは、安倍首相の明白な発言を把握しながら、言葉を真摯(しんし)に受け止めない朝日の姿勢の偏りがあるのではないのか。「あとは安倍晋三首相の政治判断が焦点」だと朝日自らが認識しながら、政権周辺を突っ付くだけで少しも安倍首相に迫っていない「取材」と称する取材。「取材は不十分」を自認する通りだ。

 何よりスクープの可能性のある第1面トップを張ろうという記事である。釈迦に説法で恐縮だが、取材に弱点があれば、どうするのか。日頃の取材の蓄積から憲法や安保政策だけでない安倍首相の思考や福祉、社会政策などの傾向までを引き出して、総合的な分析からの読みで、取材・記事の弱点を補うことが必要なことは言うまでもなかろう。

 政治部長氏の釈明からは、政治部、科学医療部、社会部、文化くらし報道部などの総合的な布陣で取材を始めたとする割には、誤報記事は慎重さに欠け軽率と言わざるを得まい。

◆“安倍憎し”が体質に

 安倍首相の保守としての政治姿勢は当然だが、支持する保守層の中には、その社会的政策では保守というより中道左派的だという指摘がしばしばなされていることは朝日も承知していよう。そうしたことを踏まえた上で分析すれば、確定事実を掴(つか)んでいない段階では、首相の「控訴せず」の方針表明の可能性も排除できなかったはずである。それを無視したのは、朝日にはいわゆる“安倍憎し”“安倍政権憎し”の偏向姿勢がこびりついて離れない“宿痾(しゅくあ)の体質”があるからにほかならない。

 このことについては20カ国・地域(G20)大阪サミットの論調を評した拙稿(4日付小欄)でも触れた。大和大学政治経済学部専任講師の岩田温(あつし)氏は、朝日・政治部次長が同紙7日付第1面で「安倍政権の政治を『嘲笑する政治』とレッテルを貼り、非難した」ことを挙げ「誤報を生じさせた過程には、朝日新聞記者、編集局の偏見や思い込みがなかっただろうか」(夕刊フジ12日付)と問うのである。

(堀本和博)