地方紙の災害取材・報道力の低下を厳しく指摘する週刊金曜日連載
◆全国的に「新聞離れ」
少子化・超高齢化の進行による歯止めのない人口減少やインターネット時代の進展、メディアの多様化などによって、全国的に人々の新聞離れが進んでいる。実部数を調査している日本ABC協会が発表した2018年下半期の朝刊部数は約3557万部で、5年前の約4158万部から600万部減った。
地方紙の場合、ほぼ一県一紙体制を維持しているので、部数の増減があまりない“無風地区”もあるが、全国紙と同様、大半は苦戦を強いられているようだ。ここ10年で32万部から23万部と約27%と落ち込んだ(全国の朝刊の減少比率とほぼ同じ)愛媛新聞を例に、部数減の原因を探っているのが、週刊金曜日の連載「『愛媛新聞』と忖度」。第4回(4月12日号)をもって休載していたが、6月28日号で再開した。
部数減の要因として当連載で指摘しているのは、以上の社会環境の変化だけではない。ほかに、新聞社内の問題、つまり押し紙の整理や編集の取材力の低下があるという。
従来タブーだった、販売店に必要以上に新聞を引き取らせる「押し紙」問題が、一昨年あたりから浮上している。この件では、全国紙の社内事情が月刊誌で追及されたが、愛媛新聞もこれらと事情を一にしているようだ。一つは、各社とも、販売店の経営を圧迫している押し紙を減らさざるを得なくなり、それが朝刊部数減につながっている。
さらに、再開された第5回では「『愛媛新聞』のファンを育てず、みかけの発行部数増に本社はこだわってきました。部数が減り始めたら購読の止め読者を減らす努力をしなければならない」という販売店店主の声を載せている。部数の長期低落が避けられないのは、押し紙問題以上に、「『愛媛新聞』のファンを育て」ていないから、つまり紙面の内容が充実していないからだというのである。
◆地元台風記事は67行
第3回の連載では、取材や編集力が低下していることを証す例を挙げている。2017年9月に四国に上陸した大型台風18号の災害現場の取材対応について「(近くの長尾谷川が)氾濫の恐れがあるため(NTTドコモの)エリアメールなど携帯電話の緊急速報が鳴り響きました。しかし、にわかには信じがたいのですが、日曜出番以外の記者を呼び出さず、外勤専任次長も編集局長ら幹部も出社しなかったのです」(ベテランの報道関係者)。そのため、「(翌日の)朝刊は1面に自社発の台風記事を67行掲載しただけ。社会面は共同通信配信記事だった」という。
同新聞関係者も「台風時の初動の致命的な遅れは“県民への裏切り”で、結果的に矮小(わいしょう)報道につながった。仮定は無意味かもしれませんが、自治体に警鐘を鳴らす記事が充実していれば、翌年の西日本豪雨で救えた命があったかもしれません」と嘆いている。
一事が万事で、通常の紙面内容についても「『愛媛新聞』に特ダネを抜かれているのではないかと、かつては毎朝ドキドキしたが、いまは怖くない。事件や災害報道の感度が明らかに落ちている」(報道関係者)と残念そうに話す。部数減の背景を鋭くえぐっている。
連載の執筆者は元愛媛新聞記者の伊田浩之さん。タイトルの「忖度」は、直近の部数の維持だけに汲々(きゅうきゅう)とし、押し紙などの策を弄する本社の人員の姿勢を否定的に捉えてのものだろう。取材力の涵養(かんよう)を、というわけだ。
◆見せ掛け部数に固執
ちなみに、連載の中で愛媛新聞の押し紙率は明示されていないが、全国紙については「関西地区のある『産経新聞』販売店では一昨年、搬入部数の約3割に達していました」という。同新聞もこれに近いのではないか。押し紙による見せ掛け部数の維持は、経営上の習い性となっている。ニュース作りの過程で、統計・資料の厳密性にこだわるメディアにして、この体たらくだ。
(片上晴彦)