防犯カメラを「監視カメラ」と言い換えウソを羅列する信濃毎日社説

◆存在せぬ「共謀罪法」

 「監視カメラの目から逃れることもできなくなった。国内には既に500万台が設置されているという。音声も同時に記録するカメラが増え、タクシーなどに備えつけられている。カメラの存在に違和感を覚えなくなった先に、至るところで会話が録音されて捜査機関の手に渡ることになるのか」

 悪事を働く者の繰り言のように聞こえる。それほど監視カメラ(普通の人には防犯カメラだが)は犯人逮捕に貢献している。先の大阪・吹田の警察官襲撃事件がそうだった。ところが、この繰り言がれっきとした新聞社説の一節だから驚かされる。

 長野県の県紙、信濃毎日の6月23日付社説である。「監視国家化に抗する 個の尊厳を守るために」と題して、こう書き始める。

 「共謀罪法が成立して2年が過ぎた。幅広い犯罪について、計画しただけで処罰の対象とし、合意した全ての人に網をかける。内心に踏み入り、思想の取り締まりにつながりかねない立法である。摘発された事例はまだないが、法の危うさが薄れたわけではない」

 度が過ぎたウソの羅列に呆(あき)れてしまった。第1のウソは「共謀罪法」。わが国にそんな法律は存在しない。2年前に成立したのは、テロ集団などの組織的犯罪集団を対象とする「組織犯罪処罰法改正案」。その中に設けられたのはテロ等準備罪だ。

 第2のウソは「計画しただけで処罰の対象」。冗談ではない、同法は犯罪を「計画」しただけでは罪に問えない。計画した犯罪の「実行準備行為」を必須とする。例えば、テロ集団が大量殺人を計画し、殺傷能力の高い化学薬品の原料を入手したり、9・11事件のようなハイジャックによる高層ビル突入を計画し、搭乗券を購入した場合だ。そんな「準備行為」がなければ、罪に問えない仕組みである。

◆国際社会が改正要請

 第3のウソは「内心に踏み入り、思想の取り締まりにつながりかねない」。もはや妄言と言うほかない。おさらいしておくと、同法は「組織的犯罪集団」の関与、重大な犯罪の「計画」、そして計画した犯罪の「実行準備行為」という三つの厳格な要件を設けている。内心に踏み込んだり、思想の取り締まりにつながったりする余地はどこにもない。

 信濃毎日は一言も書かないが、同法改正はもともと国際社会の要請だった。2000年11月、国連は各国が連携してテロ集団や国際マフィアを取り締まるため「国際組織犯罪防止条約」を採択した。同条約は4年以上の懲役・禁錮を科すものを「重大犯罪」と定め、犯罪を計画・準備した段階で罪に問える国内法を設けることを各国に義務付けた。これに従えば、懲役・禁錮4年以上の刑を科す676の犯罪が対象になる。

 ところが、野党やマスコミ、ことに朝日が「一般市民も飲み屋で相談しただけで捕まる」などと恣意(しい)的に反対し、共謀罪に悪法のレッテルを貼った。それで改正法は国際標準から大きく後退し、組織的な殺人やハイジャック、人身売買、組織的詐欺など277の罪に絞り、名称もテロ等準備罪とした。

◆犯罪的レッテル貼り

 信濃毎日は「摘発された事例はまだないが、法の危うさが薄れたわけではない」というが、話は逆だ。法が抜け穴だらけで摘発できずにいる可能性がある。また捜査当局が準備行為を事前に察知する捜査力を持たなければ、いくら法律を作っても防ぎようがない。こっちこそ危うい。

 ところが、信濃毎日は「公権力による監視や情報収集を歯止めなく広げかねない法制度が次々と整えられてきた」と通信傍受法や特定秘密保護法を批判し、揚げ句の果てに冒頭の「監視カメラ」批判だ。

 こうした論調は朝日でおなじみだ。組織犯罪処罰法は「共謀罪法」、平和安全法制は「戦争法」、そして防犯カメラは「監視カメラ」。いやはや左翼メディアの真逆のレッテル貼りは、もはや犯罪的である。

(増 記代司)