低金利で収益確保が難しく岐路に立つ銀行業界の現状を特集する2誌
◆好材料が見当たらず
銀行といえば、かつては就職ランキングで上位クラスに入ってくる職種であった。都銀(現在のメガバンク)のみならず、地銀にでも入社しようものなら地域の人からは一目置かれたものだった。しかしながら、今では若手銀行員の転職は意外に多く、人事部もそれを見越して多めに採用するとも聞く。加えて世界的な低金利の流れの中で、銀行の収益もおのずと減少し、地銀に至っては生き残りを懸けた再編劇が活発化してくると予想されている。
そうした現在の銀行事情を経済2誌が特集した。一誌は週刊東洋経済(6月22日号)の「銀行員の岐路」。そしてもう一誌が週刊エコノミスト(6月25日号)の「残る消える地銀ランキング」である。
実は、銀行業界の不振は以前からささやかれていた。2008年のリーマンショックごろから普通預金金利はほぼゼロ%近くまで下がり、銀行や信用金庫が個人や企業に資金を貸し出す際の金利を平均した平均貸出金利も2%を割り込んで下降線を描き、現在では1%を割り込んでいる状況。これでは銀行の本業というべき預金と貸出金利との利回りの差(利ザヤ)で稼ぐ預貸業務で収益が上らない。
そこに拍車を掛けたのが16年の日銀のマイナス金利政策導入。本業ではもうからないため、地銀などは中小企業などへの法人融資に積極的に出るものの融資先の企業の倒産といった憂き目に遭う。こうした取引先企業のリスクに充てる銀行の与信費用が急増している。加えて、今後加速される人口減少と高齢化の波が銀行を襲う。周りを見渡せば、業界にとっての好材料は見当たらない。
◆モデルチェンジ怠る
そこでエコノミストは、厳しい環境下にある銀行業界、特に地銀に焦点を当て、それぞれの地銀に対して収益力や与信費用、貸出金利回り、総資産、経費率といった項目から数値を引き出して「残る、消えるランキング行」を作成する。
一方、東洋経済はメガバンク、地銀を含めて分析しているが、とりわけ銀行がこのような“成長不全”に陥った要因について次のように分析する。すなわち、世界的な金利低下や国内の人口減少といった外的要因もさることながら、「経済が成熟した中で、金融をめぐるニーズは高度化、多様化した。にもかかわらず、銀行は規模を追求する従来型のモデルを深掘りすることはあっても、モデルチェンジには向かわなかった。…揚げ句の果てに、地銀によっては近年、『入社3年までに30%が退職』という若手銀行員の流動化が止まらずにいる」と指摘する。
ここでいう従来型のモデルとは、広くて浅い知識と経験を持つゼネラリストを養成し、高度経済成長期に対応した「ノルマ中心主義」の経営手法。「60歳という正規の退職年齢よりもかなり早い50歳ごろから関連会社や取引先企業に移籍する退職制度」もその一つで、「熟練さよりもスピード重視の新陳代謝」を求め、それがいまだに貫かれているところに問題があるという。時代はゼネラリストよりもスペシャリストを求めているのにもかかわらず、対応してこなかった。
◆再編の動きが活発化
それでは、銀行業界の今後を見通すとどうなるか。エコノミストは地銀について、「資本コストを賄えぬ低収益が今後も続く場合には、全ての利害関係者の最大公約数的なバランスを目指すために、株式の非上場化や、協同組織化を検討することも必要となろう」(吉沢亮二・S&Pグローバル・シニアディレクター)と提案する。極端な話、地銀は信用金庫に転換してはどうかというのである。
一方、東洋経済は「政府の未来投資会議は、独占禁止法の適用除外を認める特例法を制定して、地銀再編を促進していくとしている。これで再編の動きが活発化しそうだ」と予測する。
当分の間、銀行業界のドタバタは続きそうだが、何といっても銀行は金融の要であることに間違いはない。旧弊と決別し新しい時代へ向かう転換期にきていることは確かなようだ。
(湯朝 肇)





