テロ拡大は欧米の外交の失敗が原因と非難する「ミドル・イースト・アイ」
◆最初の犠牲者シリア
北アフリカ・リビアでの2011年のカダフィ体制崩壊後、欧州、北アフリカで、過激派組織「イスラム国」(IS)などによるテロが頻発している。体制崩壊後の欧米の対応のまずさがテロの拡散につながったと指摘されている。
英国の外交アナリスト、マーク・カーティス氏はニュースサイト「ミドル・イースト・アイ」への寄稿で、北大西洋条約機構(NATO)主導でカダフィ体制が崩壊した結果、リビアがテロの温床となり、テロ被害は欧州、アフリカ14カ国にも及んだと指摘、欧米諸国の責任を追及した。
カーティス氏は「キャメロン(英首相)、サルコジ(仏大統領)、オバマ(米大統領)の残したレガシーが欧州、アフリカに暗い影を落としている」と強調、「リビアからの影響は広範囲に及ぶ。欧州、シリア、北アフリカ、サブサハラ(サハラ砂漠以南)でテロ事件が起きている」と、体制崩壊後の対応のまずさから、リビアに過激派、武器が集まり、周辺地域にテロが拡散したと訴えた。
最初の被害者は、内戦の最中のシリアだ。「リビアで訓練を受けた約3000人の戦闘員らがシリアに向かい」、シリアでイスラム過激派組織「ヌスラ戦線」や、リビアの民兵らが結成したIS系テロ組織に合流したとカーティス氏は主張する。
ISはその後、リビアでもテロを実行、サブサハラにも拠点を築くなど、アフリカ北部で勢力を拡大している。
◆リビアがテロ温床に
米紙ニューヨーク・タイムズでテロ対策専門家キャメロン・コルクホーン氏は、その後、シリアからIS系テロリストらがリビアに帰還、「これが、欧州へ脅威が拡大していく契機となった」と指摘、リビアが国際テロの温床になっていったと主張している。
周辺国では、アルジェリア、エジプト、マリ、ニジェールなどで、欧州では、フランス、イタリア、ドイツ、ベルギー、英国にもテロは拡大した。
カーティス氏は「西側の指導者らは、軍事的にテロを封じ込めようとしているが、一方でひどい外交政策によってテロを引き起こしている」と体制崩壊後のリビアを放置し、力の空白を生んだことでリビアがテロの温床となったと主張している。
イラクからの米軍撤収後に、ISがイラク、シリアにかけて広大な支配地を拡大した。軍事力で体制を転換させたアフガニスタンでも、依然、体制は安定していない。欧米諸国は、軍事介入の是非、軍事介入後の体制安定化策などを再検討する必要があるはずだ。
また、カダフィ体制崩壊後、東西に分断されてきたリビアで、新たな動きが出ている。東部から南部を支配してきたハフタル元国軍将校率いる民兵組織「リビア国民軍(LNA)」が首都トリポリへの「進軍」を開始したからだ。
西部のトリポリは、国連の支援を受ける国民合意政府(GNA)の拠点。しかし、欧州、中東にはLNAを支援する国もあり、各国の利害と思惑をめぐる草刈り場と化している。
◆混乱招く外国の介入
英紙ガーディアン(電子版)は社説で「ハフタル氏を支援する各国がけしかけ、市民が犠牲を払っている」と外国政府からの介入が、リビアの混乱を招いていると主張した。
LNAはフランス、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)などの支援を受けているとみられている。いずれも、油田への権益、さらには中東での影響力の確保が狙いであり、介入がリビアの安定化や民主化につながることはなさそうだ。
ニュースサイト「ニューアラブ」は、「UAE政府は、リビアで、2013年のエジプトを再現しようとしている。つまり、軍事政権を立て、民主主義を後退させ、イスラム主義者らを駆逐し、UAEへの依存を維持させることを目指している」と主張、リビアへの各国の介入は自国の権益と影響力の確保が目的と非難している。
「このような動きは、政治的不安定を招き、分断を強める危険性がある」という主張に各国は耳を傾けるべきだろう。
(本田隆文)