うのみにできぬ統計データを読み取る力に焦点を当て特集した2誌

◆危ない“思い込み”

 スウェーデンの医師で公衆衛生学者のハンス・ロスリング氏(故人)が著した『ファクトフルネス』が話題作になっている。既に世界では100万部を突破し、日本国内でも年初に発売されてからわずか2カ月で30万部を突破しているという。「ファクトフルネス」とはデータや事実に基づいて世界を正しく見る習慣、を意味する造語。同書によれば、「賢い人ほど世界の真実を知らない」と指摘する。人間はややもすると本能的あるいは性格的に間違いを犯すことが多々ある。“思い込み”や“うっかり”といった類のものだが、それらのポイントを留意しながら事実やデータに直視していくならば世の中を正しく読み取ることができるというのである。

 こうしたデータや統計を読み取る力に焦点を当てて経済2誌が特集を組んだ。一つは週刊東洋経済(4月6日号)の「ファクトフルネス日本版 なぜ賢い人ほど間違うのか?」。もう一つは、週刊ダイヤモンド(4月13日号)の「数式なしで学べる統計学入門」。どちらもハウツーものである。東洋経済においては、ロスリング氏の著書『ファクトフルネス』が世界の事象を取り扱ったのに対し、同号では日本国内の問題を取り扱った。

◆判断誤らす10の本能

 同氏によれば、物事の判断を誤る原因には10の本能があるとする。すなわち、社会はだんだん悪い方向に向かっているなど物事をネガティブに見る「ネガティブ本能」、目の前の数字や事柄が一番重要だと見る「過大視本能」、世界を一つの切り口で見るなど物事を単純化してみる「単純化本能」、実際は危険ではないものを恐ろしいと考える「恐怖本能」など。これらの本能が現在、世界で起きている事象を誤認させる結果になっているというのだ。その実例として東洋経済は第1部で15の質問を挙げ、読者に答えを選んでもらい、その後に正答を読んでもらう企画を立てているが、これが意外に面白い。

 例えば、「日本政府の推計によると、40年後(2059年)の日本の65歳以上の人口は今と比べてどうなるでしょうか」という問いに「A今と変わらない、B20%ほど増える、C40%ほど増える」から選ぶ。答えはAだ。19年の65歳以上の人口は3592万人、59年は3571万人と推計され、今と変わらない。

 もう一つ例を挙げると、「日本の小学校教師の女性比率はOECD(経済開発協力機構)に加盟する先進国の中で何位でしょうか」という問いに、「A1位、B4位、C最下位」では、答えはC。OECD加盟国の多くは80%以上が女性教師、日本は65%で、世界に比べて低いのである。

 本誌の企画の主張は、データや事実を誤認させる原因をしっかりと捉え、事実に基づいて一つ一つの事象を多面的に捉え、世界を正しく認識していく能力、すなわち統計リテラシー(統計を活用する力)を高めるべきだ、ということ。多数のメディアがさまざまな統計データを使って過度な情報を流す現代社会にあっては、事実をしっかりと見詰める目を養うことは極めて重要であることは間違いない。

◆立体的な見方が大事

 一方、ダイヤモンドの企画は、最近話題になった政府の統計不正いわゆる毎月の勤労統計を挙げながら、同統計の大まかなデータ作成の流れを説明し、さらに政府統計の信頼回復への処方箋を提示し、統計全般におけるデータの読み取り方、活用の仕方(データリテラシー)を紹介している。その中でデータリテラシーを高める心構えとして、①平均に気を付ける②全体だけでなく部分も見る③「率」は分母・分子に注意④調査方法を確かめる―を挙げる。

 同誌は「データはどんな調査にもバイアスがかかっている。また、どんな人もバイアスを通して物を見ている。自分に関係のない情報がそぎ落とされている」(松本健太郎・データサイエンティスト)と指摘するが、経済2誌の結論としては、統計データはさまざまな角度から立体的に見ることが大事という点では一致している。

(湯朝 肇)