9条改正派が7割でも改憲支持が縮んでいるように伝える共同世論調査
◆改憲が「必要」は63%
共同通信社は憲法記念日の5月3日を前に実施した憲法に関する世論調査の結果をまとめた。在京紙では東京と産経、地方紙では多くが「9条改憲首相案支持40% 安倍政権下54%反対」との見出しで報じている。
配信記事には「9条改正について、戦力不保持と交戦権否認を定めた2項を維持したまま自衛隊を明記する安倍晋三首相案を支持したのは40%にとどまった。安倍政権下での改憲には反対54%、賛成42%だった。国民の理解が深まっているとは言えない現状が明らかになった」と、改憲支持が広がっていない印象を与えている。
だが、世論調査は曲者だ。そのことは先週の本欄で恣意(しい)的な朝日の元号調査を紹介したばかりだ。では、今回の共同は大丈夫だろうか。調査方法は、各紙によくある電話法ではなく郵送法だった。加えて全国有権者の縮図を作って調べる層化2段無作為抽出法で、回収率は約64%。これなら、かなり正確だと思われる。ならば質問の仕方は中立か。佐賀新聞(ネット版)に一問一答が載っていた。
それを見ると、確かに首相の9条改憲案の支持は40%、安倍政権下での改憲に54%が反対している。ところが、子細に中身を見ると、驚いたことに改憲支持が縮んでいるどころか、大きく広がっていた。国民の改憲意識はむしろ高まっているのだ。
まず「憲法改正問題に関心がありますか」の質問では、「ある」が71%、「ない」が28%で、改憲への関心は高い。改憲の必要性については「必要」は63%、「必要ない」は36%と改憲派が圧倒している。改憲派に「何を対象に議論すべきか」を聞いたところ(2答)、「憲法9条と自衛隊の在り方」が52%、「大災害時などの緊急事態条項の新設」が31%で1、2位を占め、「教育の充実・無償化」24%や「知る権利やプライバシー権の明記」16%を凌駕(りょうが)し、改憲派の危機意識の高さがうかがい知れる。
◆「2項削除」ほぼ3割
9条改正は賛成45%、反対47%と拮抗(きっこう)していた。ところが、「憲法9条は第2項で陸海空軍その他の戦力の不保持と交戦権の否認を定めています。安倍晋三首相はこの規定を維持しつつ、9条に自衛隊の存在を書き加えることを提案しています。あなたはどう思いますか」と、9条2項の内容と首相案を示して質問したところ、回答はこうなった。
▼9条の第2項を維持して、自衛隊の存在を明記する……40%。
▼9条の2項を削除した上で、自衛隊の目的、性格を明確にする……29%
▼9条に自衛隊を明記する必要はない……27%
何と、ここでは9条改正派が約7割を占め、9条護憲派は3割以下だった。首相案支持は4割だが、「2項削除・自衛隊明記」がほぼ3割に達する。これは注目してしかるべきではないか。首相案は言ってみれば、9条維持の公明党への妥協案だが、それに飽き足らず、「戦力不保持」「交戦権否認」という“世界の非常識”に異議を唱える世論が一定規模を占めている。
◆「共同正犯」の地方紙
また9条改正派にその理由を聞くと、「北朝鮮の核・ミサイルや中国の軍備拡張など日本を取り巻く安全保障環境が変化しているから」が56%と最も多く、首相が唱える「今の憲法では自衛隊は憲法違反との指摘があるから」は26%にとどまった。ここから知れるのは、自衛隊をめぐる憲法論議といった内向き姿勢ではなく、外に目をやり安保・国防を憂慮する声が圧倒的に多いということだろう。
こうしてみると、共同の世論調査結果は「9条改憲派が7割占め、防衛意識の高さ鮮明に」と報じられるべきだ。それを産経までもが(1段ベタ記事とはいえ)配信記事を鵜呑(うの)みにし、改憲派が縮んでいるように扱っているのは情けない。東京や地方紙は共同の“護憲詐欺”に便乗している。いや、「共同正犯」と言うべきか。
(増 記代司)