トルコの台頭を受けて米国の無策に警鐘鳴らすブルームバーグ通信
◆中東の第3の勢力に
トルコをめぐる動きがこのところ慌ただしい。シリア内戦で米国主導の有志連合に協力したトルコだが、内戦の終盤に向かってシリアのアサド政権、ロシアへの接近を強めている。ロシアの迎撃ミサイル導入をめぐって米国と激しく対立しており、中東で、親米勢力、イランに次ぐ「第3の勢力」として台頭、中東の勢力図が大きく変わろうとしている。
レバノン出身で、ワシントンのシンクタンク、湾岸アラブ諸国研究所の常任上級研究員フセイン・イビシ氏は、米ブルームバーグ通信への寄稿で、「中東が急速に変化しているにもかかわらず、米国は情勢を把握することも、対応することもできないようだ」と警鐘を鳴らした。
中東は、サウジアラビア、エジプトなど親米諸国と、イラク、シリア、レバノンなど親イラン諸国に分断されてきた。トルコも、北大西洋条約機構(NATO)加盟国として、親米勢力の一角を担っている。2011年にシリア内戦が勃発して以降、トルコは親米勢力と共闘し、親イランのアサド政権に対抗してきた。イビシ氏は、「シリア内戦で反政府勢力の拠点アレッポを親アサド勢力が奪還し、内戦は事実上、終わり、対イラン戦線も崩壊。トルコは(米国の支援を受ける)クルド人勢力の封じ込めへ、ロシア、イラン、アサド政権と協力するようになった」とトルコが、親露、親イラン傾向を強めていることを指摘した。
一方でトルコは、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)と対立するカタールにも近い関係にある。カタールはイランとの関係をめぐって、ペルシャ湾岸アラブ諸国から断交されている。「カタールとトルコはイスラム教スンニ派組織ムスリム同胞団を支援し、それがボイコットの主要原因」(イビシ氏)であり、カタールへの接近が、トルコのイラン接近の一因になっているという。
◆地域の覇権国目指す
イビシ氏は、「1世紀にわたり欧州の仲間入りを目指し、失敗してきたトルコが欧州に背を向け、イランのように地域の覇権国となる可能性がある」と今後の反西側勢力としてのトルコの台頭を予測している。
また、かつてイスラム圏の大部分を支配したオスマン帝国を継承するトルコは「その支配力を復活させる野心」を隠していない。エルドアン大統領は「イスラム世界をリードできる国はトルコだけだ」と公言している。「イスラエルとアラブ諸国は、影響力を拡大するイランだけでなく、トルコがリードし、カタールが資金提供するスンニ派イスラム主義連合に対抗しなければならず、警戒を強めている」とイビシ氏は指摘する。
だが、米国の反応は鈍い。イビシ氏は「トランプ政権を去った外交・安全保障専門家らからの警告にもかかわらず、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、ポンペオ国務長官ら米国の指導者らは、どう対応すべきかを考えている兆候がない」と、米国の対応に懸念を表明。「米国は態度を変えるべきだ」と訴えた。
ロシアの迎撃ミサイルS400のトルコ導入に米国は反対している、最新鋭戦闘機F35の売却を阻止するとトルコを脅すだけで、トルコは反発を強めるばかりだ。F35の開発にはトルコも参画しており、トルコからみれば不当と言うしかない。
◆根底に米英への不信
この問題に関して、トルコ人ジャーナリストのボラ・バイラクタル氏は、有力紙ヒュリエトで「米政府は、トルコ防衛のための具体的で、誠実な措置を取らず、トルコが製造費を負担するF35を提供しないと脅すばかりだ」と米国の無策を非難。根底に、対米不信があると強調した。
そこには、第1次大戦前、オスマン帝国が親密な関係にあった英国に、国防をめぐって裏切られたことによる「不信」があると指摘する。
オスマン帝国は、ギリシャ、ロシアからの自国防衛のために、英国に2隻の軍艦の建造を発注した。ところが、チャーチルによって引き渡しは中止され、海上防衛を英国に頼らざるを得なくなったという苦い経験がある。その後、ドイツから軍艦2隻を導入、オスマン帝国は、ドイツと共に第1次大戦に加わり、「歴史から消滅」(バイラクタル氏)した。
バイラクタル氏は「1世紀後、トルコに同様の危機が訪れた」「トルコは中国とロシアに頼らざるを得なくなった」とトルコの自国防衛を軽視する米国を非難、トランプ政権の中東政策の転換を求めた。
(本田隆文)