震災8年、若い世代の復興への前向きな取り組みに焦点当てた毎日・産経

◆総論的確だった日経

 発生から平成としては最後となる11日で8年を迎えた東日本大震災。死者、行方不明者など2万2100人を出し、原子力発電所の事故が重なった福島県では今も4万人以上(岩手、宮城、福島の被災3県で約5万2000人)が避難生活を続けている。

 「復興のペースを緩めず、生活や産業の確かな再建につながなければならない。平成という時代に刻印を残した惨禍の記憶を語り継ぐ努力も要る。被災地の将来像を描き直し、設置期限が迫る復興庁の役割も考えるときだ」(日経)。

 この日、一斉に総括と展望を示す論調を掲げた各紙の中では、日経の総論が的確だった。また復興住宅の建設などについて、毎日は「災害公営住宅の建設や、高台移転のための宅地造成はゴールが見えてきた」。「被災者の生活の基盤となる住宅の再建事業がゴールに近づいている」ことを評価する読売も、復興住宅は約3万戸(計画の98%)が完成し、宅地造成も進捗(しんちょく)率が90%を超えていることなどを挙げて「政府は岩手、宮城県について、2年程度での仮設解消を見込む」までに進んでいることを認めた。

 それでも復興がはかどっていない印象を受けるのは「岩手、宮城県などの被災地もコミュニティーの再建に時間がかかっている」(日経)からだ。読売は「移転先で孤立する住民が目立つこと」を懸念し「コミュニティーの形成を後押ししていく」ことや、宅地用のかさ上げ地の約66%で当面の利用予定がない岩手県陸前高田市を例に「いかに町の魅力を高めるか。さらに知恵を絞」ることを求めた。

◆地域再生の事例紹介

 地域のコミュニティーの再構築が先行き「最も大事な要素になる」と強調する毎日は、次代を担う人たちの知恵を絞った地域再生への取り組みを紙数を割いて紹介しているのが興味深い。例えば、大型商業施設に頼らないまちづくりが注目される宮城県女川(おながわ)町だが、観光客が震災前の6割にとどまる。そんな中で、釣具店の再建でウエットスーツの製造販売も加え、釣りやマリンスポーツでやって来る人を増やしたいとする人、町に移住して宮大工の技術を生かしてギター製造の工房を構えた人などだ。

 そして、復興政策は今後「被災者の生活支援や産業、観光振興などのソフト重視にますます力点が移る。被災地の実情を踏まえた支えが必要だ」と説く。「前を向く若い世代にバトンが引き継がれ、移住者らが加わった新しいコミュニティー作りが各地で芽生えていることは心強い」とエールを送る前向きの主張がいい。

 地域の再興では、産経も同様の前向きな、若い医師の取り組みを紹介している。震災を機に宮城県登米(とめ)市で地域医療を同僚と立ち上げた若手医師のケース。「東京など都市部と、登米市のそれぞれ在宅医療専門の拠点を設け医師が毎週、ローテーションで勤務する」仕組みである。産経は「人口減が止まらず、にぎわいが戻らない被災地の課題は、被災地以外の日本の将来を映す」ことを見据えた視点で「震災を機に、絆を生かした復興の芽も息吹(いぶ)いていることを知っておきたい」と訴える。こちらの前向きの主張も同感である。

◆「防災庁」新設を支持

 ところで、朝日もたまにはいい未来への備えの提案をする。大震災を機にできた復興庁の仕事が10年単位の都市開発に多用されてきた区画整理事業による復興となり、迅速な復興や人口減地域への対応という点では十分ではなかったことや、政府に「災害対応の政策を考える専門の部署が、復興庁を含めてどこにもない」ことを指摘。自民党の石破茂・元幹事長らが提言する「防災・減災から、復旧、復興までを総合的に担う」役所の新設を支持。①専門的な人材の確保、育成のため、復興庁が集めた資料や現場のノウハウの散逸防止にもつながる②巨大災害への備え③災害対応への国民意識を高める―の三つの主な理由を挙げ、次のように提案している。

 「復興庁の後継組織づくりを機に、巨大災害に対応できる新次元の『防災庁』を立ち上げて、しっかり備える。/それが『3・11』の教訓を生かす施策だと考える」と結ぶ。巨大地震などへの備えは、党派や確執などを超えた喫緊の課題であることは言うまでもない。

(堀本和博)