「はやぶさ2」の快挙に喝采を送る中、予算面の不安を指摘した朝日

◆高度な技術力を示す

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が、「りゅうぐう」への着陸に成功し、また、着陸時に試料採取のための弾丸が発射されたことも確認された。地球から約3・4億㌔の距離にある、直径約900㍍の小天体での快挙である。

 各紙も東京を除く6紙が社説で論評を掲載、その快挙をたたえた。各紙の社説見出しを挙げると、次の通りである。

 読売(2月23日付)「太陽系の起源に迫る挑戦だ」、朝日「宇宙を思い足元固める」、毎日「宇宙探査の技術力示した」、産経「初代の失敗と自信を糧に」、日経「はやぶさ2の成功を資源探査に生かせ」、本紙(27日付)「夢が膨らむ小惑星着陸成功」――。

 読売の「太陽系の起源に迫る…」というのは、地球と火星の間を公転する小惑星が、太陽系の原初の姿をとどめていると考えられ、その試料を分析すれば、太陽系の成り立ちなどを解明する手掛かりが得られる可能性があるからで、読売が指摘するように「上々の成果」と言えよう。

 毎日の「宇宙探査の技術力…」は文字通り、工学的側面からの評価である。3・4億㌔離れたはやぶさ2との交信は往復で約40分かかり、地球からの指示では迅速な対応ができない。そのため、着陸最終段階では搭載したカメラや高度計などを使い、完全な自動運転で実施された。「こうした航行技術は、今後の宇宙探査でも大いに役立つはずだ」(毎日)というわけである。

◆宇宙資源開発に直結

 確かにその通りで日経も、小惑星探査の意義は夢のあるプロジェクトが人々の科学への関心を高める効果のほかに、「緻密な探査技術が月の資源開発などに役立つ」、つまり、遠い宇宙で資源の在りかを見つけて持ち帰るための必要な技術に直結する、からと強調する。

 宇宙探査では米国に月の資源開発に加え、火星探査のための補給基地として月を利用する構想がある。特に月の探査をめぐっては米国のほか、欧州、中国を加えた競争が本格化しつつあり、日本も月や火星の探査を目指している。日経は「はやぶさ2の成果を最大限活用すべきだ」と訴え、それが社説の見出しになっている。

 この点は産経も同様で、「自動航行は、火星をはじめ惑星や小惑星の探査では極めて重要な技術であり、難度の高い着地に成功した意義は大きい」と高く評価した。

 産経の見出し「初代の失敗…」は、困難を克服して帰還した初代チームの粘り強さと自信が引き継がれ、2代目の快挙に生かされた、と成功の背景に重きを置いた。

 そのためか同紙は、「失敗経験を正しく引き継いでいくことが、新たな困難を乗り越える対応力を生むことを、はやぶさ2の快挙は示した」と述べ、それは宇宙や科学に限らず、多くの企業や組織にも当てはまるだろうとし、特に日本の将来を担う若い世代に対して「挑戦する勇気」の大切さをくみ取ってもらいたいとして社説を結んだ。もっともな指摘であるが、社説が説教調の人生訓になってしまったのはちょっと残念である。

◆科学分野の予算縮小

 そんな中、他紙と異なった論評を示したのは、朝日である。もちろん、同紙も今回の成果について、「小惑星から試料を回収する技術とノウハウを持つのは、いまのところ日本だけだ。世界をリードできる分野であり、宇宙を舞台とする国際的なプロジェクトに参加する際、他国と交渉するカードにもなる」と高く評価するものの、「ただし、足元は心もとない」という。

 その理由だが、同紙は「政府の宇宙関連予算はほぼ横ばいだが、安全保障や産業利用のための計画に重点的に割り振られ、科学分野は低迷している。15年度は200億円あった予算は、今年度110億円にまで落ち込んだ」と指摘。また今後も、米トランプ政権が掲げる有人月探査計画への参加のいかんによっては、巨額の費用負担が生じかねず、結果として科学探査にしわ寄せが及ぶ可能性もある、と懸念するのである。

 ただ、安全保障面では国際情勢からやむを得ない面があり批判は当たらないが、予算の縮小は宇宙探査に限らず、基礎科学研究と同様、国の科学技術政策に関わる問題と言える。同紙の「足元を固める」問い掛けは一理ある。

(床井明男)