首相の自衛官募集発言を「事実をねじ曲げ」と批判する朝毎こそ事実を歪曲

◆資料提供拒む自治体

 安倍晋三首相は自民党大会で「自衛官募集に都道府県の6割以上が協力を拒否している悲しい実態がある」と述べ、憲法への自衛隊明記の必要性を訴えた。これに対して野党や左派メディアは安倍首相が改憲の“口実づくり”に事実をねじ曲げていると主張している。真相はどうだろう。

 自衛隊は創設以来、左翼勢力から違憲扱いされ、さまざまな迫害に遭ってきたのは紛れもない事実だ。自衛官の子供は「違憲の子」「人殺し集団の子」といったヘイトスピーチにさらされ、教師からいじめを受けて転校を余儀なくされた子もいた。革新自治体は自衛官の募集業務を公然と拒んだ。

 それが今日では自治体のほとんどが保守系首長だ。それでも全国の6割以上の自治体が自衛官募集を拒否しているというのは、にわかに信じ難い。もしかして安倍首相の勘違い発言か。そう疑った人もいたのではないか。

 だが、防衛省によると、安倍首相の指摘通りだという。自衛隊施行令では自治体は自衛官募集の業務の一部を行うことになっており、これに基づいて防衛省は紙か電子媒体での募集対象者の資料提供を求めている。ところが、応じる自治体は36%に当たる632自治体にとどまっている。それで仕方なく他の自治体については住民基本台帳からの書き写しで情報を得ているという(岩屋毅防衛相=15日の衆院予算委員会)。

 これは確かに異様だ。保守系首長が昔からの惰性で協力していないとするなら違憲扱いの名残だ。確信犯的な拒否なら、それこそ違憲扱いそのものだ。いずれにしても9条の悪しき所産だ。

◆「大震災地誌」を黙殺

 そういえば、自治体と自衛隊をめぐってこんなこともあった。阪神大震災が発生する前年(1994年)に陸上自衛隊は「大震災地誌・京阪神編」を作成し、「尼崎市~神戸市南部地域(長田区)は、木造建築物が密集しており、地震に伴う家屋の倒壊及び火災の発生・延焼等の危険性が高い。兵庫県内対象地域はいずれも40%以上の高い焼失率が見積られる」と指摘した。

 陸自は「大震災地誌」を兵庫県や神戸市など関係自治体に直接持ち込んだが、ことごとく黙殺された。震災発生後、当時の中部方面総監・松島悠佐陸将は「地誌の扱いにしろ、連絡・調整にしろ、電話帳の整備にしろ、訓練やその準備にしろ、ふだんからできることを全部やっておけばよかったんです。…私たちとしては(各自治体に)訓練しませんか、連絡・調整しませんか、と何度も話を持ちかけているんです。でもそれは実現しませんでした」(「サンデー毎日」95年2月26日号)と無念な思いを語っている。自治体が自衛隊を違憲扱いすることで大惨事を広げたといっても過言ではない。

 左派紙にはこんな記事があった。三宅島噴火(2000年6月)では大型輸送艦「おおすみ」で全島民を避難させたが、朝日は「救助活動で(自衛隊への)批判がかわせるとの思惑もちらつく」(同6月28日付)と書き、島民を呆れさせた。

 島民避難の教訓に自衛隊は同年9月の東京都総合防災訓練に初めて本格参加したが、朝日は「自衛隊が前面に出たものものしい訓練には『防災に名を借りた軍事演習』との批判の声も上がった」とし、「備えは自衛隊 憂いあり」と、自衛隊を「憂い」と忌みした(同9月4日付)。自衛官募集では毎日が批判記事を書いた(03年4月22日付「自衛官募集に住基情報」など)。

◆「慎むべき」は両紙

 その後の大災害とりわけ東日本大震災では自衛隊の救難・復興活動が評価され、違憲扱いする自治体はほとんどなくなった、と思っていたのだが、それが6割以上の非協力である。これは確かに「悲しい実態」だ。

 ところが毎日は「首相の自衛官募集発言 事実の歪曲で憲法語るな」(13日付社説)と言い、朝日は「9条は戦後日本の平和主義の根幹をなす。その重みを踏まえた熟慮の跡もなく、事実をねじ曲げる軽々しい改憲論は、いい加減に慎むべきだ」(14日付社説)と安倍首相を批判している。

 呆れた妄言だ。事実を捻じ曲げているのは毎日や朝日だ。「いい加減に慎むべきだ」の言葉はそっくり両紙に返さねばなるまい。

(増 記代司)