日立英原発事業凍結で原子力の人材・技術維持に強い危機感の保守系紙

◆輸出案件ゼロの公算

 日立製作所が、英国で進めてきた原子力発電所の建設計画の凍結を決めた。安全対策などで事業費が想定を上回る3兆円規模になり、同社が事業継続の条件とする出資集めのめどが立たなくなったためで、同事業の売却・完全撤退も視野に入れる。

 海外での原発事業では、三菱重工業もトルコでの建設計画を断念する方向で検討中であり、日本の輸出案件は事実上ゼロになる公算が大きい。

 各紙はこれまでに、毎日を除き社説で論評を掲載。日付順に見出しを記すと以下の通りである。19日付読売「原子力技術の維持に知恵絞れ」、朝日「原発輸出/失敗認め戦略の転換を」、日経「憂慮される原発の技術や人材の散逸」、東京「原発輸出総崩れ/成長戦略の誤り認めよ」、20日付本紙「技術開発と人材確保に努めよ」、21日付産経「原発輸出の頓挫/政府の姿勢を明確に示せ」――。

 上述の通り、保守系紙とリベラル系紙で論調が見事に分かれた。保守系紙が、「日本の原子力技術をどう維持していくのか。まさに正念場」(読売など)と危機感を募らせるのに対し、リベラル系紙は「苦境の原発産業を輸出で支えるという政策は、行き詰まりが明白になった」(朝日など)と政府に戦略の転換を迫るのである。

◆政府に姿勢明示求む

 保守系紙が強い危機感を抱くのは、2011年の東京電力福島第1原発事故以来、国内での原発新設が難しい状況が続いているからだ。「活路を開くための輸出までストップすれば、これまで培った高い技術やノウハウが失われかねない。新たな人材も育つまい。ゆゆしき事態」(読売)というわけである。

 産経も、政府は海外輸出を通じて原発技術の継承などを目指してきたが、日立の凍結で日本が進めてきた原発輸出案件が全て頓挫することになり、「極めて深刻な事態」と強調する。

 だからこそ、読売はコスト高騰を受けた経営判断とはいえ、日立が原発輸出を凍結したのは「極めて残念」としたが、では今後どうすべきか。

 同紙は「政府も当事者意識を持って対応すべきだ」とし政府に副次的な対応を促したが、むしろ政府が原発を将来にわたって活用する姿勢を明確に示すべきだと強く訴えたのが産経である。「国内で原発の新増設や建て替えの必要性を打ち出し、民間に技術開発の継続を促す必要がある」というわけである。

 政府は昨年、新たなエネルギー基本計画で30年度の電源構成として原発比率を20~22%にする方針を決めたが、原発の新増設や建て替えの必要性は示していない。「原発輸出が頓挫した以上、政府は輸出に依存せず、国内で高経年原発の建て替えなどに取り組む姿勢を明示すべきである」との産経の主張は肯(うなず)ける。

 日経も、20~30%の電源構成を実現するには30基程度の原発が要るが、「足元では既存原発を再稼働させても、これらが運転期限を迎えた後の新増設について、国は議論を避けてきた」と国の姿勢を非難し、「国が長期の道筋を早急に示さねばならない」と訴えた。同感である。

◆存在感を高める中露

 原発の技術や人材が失われる危険だけではない。海外では中国やロシアが国を挙げて新興国の原発建設を請け負い、存在感を高めている。日経は「技術と経験が散逸する日本企業との競争力の差は開くばかりだ。原発の担い手が中ロに集中することが、国際的な核管理の観点からも望ましい姿とは言えない」としたが、その通りである。

 ところが、リベラル系紙には、このような危機感は全くなく、あるのは政府に対し「誤り認めよ」(東京)や「戦略の転換を」(朝日)である。そして、いまだ安定的電源に足り得ていない太陽光や風力など再生可能エネルギーへの過剰な期待である。

 朝日は、「日立の計画断念は、政府や産業界が長年強調してきた原発の経済的優位性が根底から揺らいでいることを、端的に示すもの」と断定するが、政府は米国との協力で、安価で安全性も高いとされる小型モジュール炉(SMR)などの新技術開発にも力を入れる方針であること(本紙指摘)は無視。この点でも、SMRなど「世界的な新技術の開発競争に、日本企業も積極的に参戦してもらいたい」とした読売は実に前向きである。

(床井明男)