ファーウェイ副会長逮捕めぐりフジ「報プラ」の疑惑と擁護の両極端
◆サンモニで米の懸念
中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長が、カナダで逮捕されたニュースが流れたのは6日のこと。「イラン制裁違反」の容疑で米国当局がカナダに要請し、米中首脳会談がアルゼンチンであったのと同じ1日に逮捕され、中国当局の激しい批判や報復とみられるカナダ人拘束など国際対立をはらみながら、11日に8億4700万円で保釈された。
この事件によりファーウェイが注目され、一昔前の格安メーカーが今や米国に本気で牙を剥(む)かせているのは何かに迫ろうと、16日の報道番組でも取り上げられていた。
TBS「サンデーモーニング」は冒頭で孟容疑者の保釈や米中の応酬の様子を扱うとともに、ファーウェイは「次世代高速通信技術(5G)で世界をリードし、170の国と地域で事業展開」し、「通信基地局の世界シェア27・9%で1位」などと紹介した。
また、12日に米上院司法委員会公聴会で連邦捜査局(FBI)スパイ部門スタッフが、「ファーウェイは世界的規模で成長している。その保有するデータを中国政府が利用できることを知らなければならない。どんなことにも利用できる」と強い懸念を表明したことや、ペンス副大統領が「中国の諜報機関が最先端の軍事技術を含む米国の技術をまるごと盗んでいる」と述べたことなどに触れた。
司会の関口宏氏は、「FBIが躍起になるぐらいだから、奥というか裏は相当深いものを感じる」と出演者に話を向けると、評論家の寺島実郎氏は、ネット情報を政府がコントロールしやすい中国と、グーグル、アマゾンなどITビッグ5がある米国双方とも「過剰にネットワーク情報技術に依存する危険性」があり、それが「ネットワーク情報技術革命の本質」だと唱えた。
一理あるが、危険性を本質と言ってしまうと無法地帯のままで善悪もなくなる。その無法地帯に米国がメスを入れようとしているのが事件の本質に思える。ペンス氏発言に示されるように米側が「米国の技術をまるごと盗んで」短期間に「5Gで世界をリード」できたと見たからではないのか。
◆中国民間企業とPR
同番組も報じたが、孟容疑者は保釈後に「ファーウェイを誇りに思い祖国を誇りに思う」とインターネット交流サイト(SNS)に書き込んだという。強い国家意識を持ち、祖国・中国もまたカナダ人拘束の挙に出て、民間レベルの事件とは思えない展開である。
しかし、フジ「報道プライムサンデー」を視聴すると、ファーウェイは洗練された民間企業として紹介された。番組は中国・深●(「土へん」に「川」)のファーウェイ本社の広大な電車で移動する敷地、洋風の城のような研究施設などの映像を流し、世界から集まる優秀なエンジニア、高い給料など良いことづくめの企業案内をした上、今では「日本企業が下請けになりつつある」(現代ビジネスコラムニスト・近藤大介氏)などのコメントを添えた。
1987年に人民解放軍をリストラされた任正非・最高経営責任者(CEO)が6人の社員と30万円の資金でスタートして、従業員を大切にし、従業員持ち株制で上場はせず、最高経営者(CEO)交代制など特徴のある経営で大成長したファーウェイは、国有企業の中興通訊(ZTE)とは違う民間企業だと東京福祉大学国際交流センター長・遠藤誉氏の解説で紹介。ファーウェイ急成長は日本の尖閣諸島国有化で起きた日本製品不買運動により、半導体特需が起きたからだと説明された。
また孟容疑者についても、東日本大震災直後、来日して被災現場で施設の復旧を指揮したなど美談も伝えた。
◆反論を受け立志伝か
この任正非・孟晩舟親娘の立志伝を報じる前に、同番組は「政府がファーウェイの製品を分解したところ余計なものが見つかった」との「与党関係者」の発言を捉え、「余計なもの」は何かを、防衛省サイバー防衛隊初代隊長だった佐藤雅俊氏に聞き、ある法人向け同社携帯が「通信状況をモニターしているとスパイウエアに似たような挙動を示している。しかも通信先が中国らしいという情報がある」と語ってもらっている。
フジは政府がファーウェイとZTEを政府調達から排除する方針を固めた7日、「プライムニュースイブニング」で「余計なもの」疑惑を報じたところ、ファーウェイから「事実無根」との反論を受けた。16日の番組で擁護してバランスを取ったのだろうが、両極端な印象である。
(窪田伸雄)