「世界は未曽有のリバランスを経験している」と警告するNW日本版
◆世界分断の恐れ指摘
年の瀬に来る年を占う―。ニューズウィーク日本版(1月1・8日号)が「イシューズ2019」を特集した。冒頭の「世界が直面する未曽有のリバランス」を元英首相のゴードン・ブラウン氏が書いており、整理させられる。
ブラウン氏は2018年を「歴史的転機だったかもしれない」とし、「70年代に構築されたアメリカ主導の国際秩序が揺さぶられた。同時にそれは、中国が独自の国際機構を構築する環境をつくり出し、競合する2つのグローバル統治システムによって世界が分断される恐れが出てきた」と分析、「世界は未曽有のリバランスを経験している」と指摘している。
確かに「多国間協調の努力」をことごとく破壊した「アメリカ・ファースト」こそ、中国の挑戦を呼び起こした原因の一つだろう。「G7とG20を形骸化させ、TPP(環太平洋経済連携協定)を離脱して、中国がアジア太平洋地域で経済的覇権を築く道を開いた」のだから。
ブラウン氏は、この「世界的な対立に備える一方で、協調によって形作られる未来に向けて動かねばならない」と提言する。何となれば「国益は国際協調を通じてこそ達成できる」からだ。
その通りなのだろうが、トランプ米大統領にその気がなく、さりとて自由世界とは相いれない価値観を持つ独裁国家の習近平中国国家主席の描く夢には付き合い切れない。ならば、誰がトランプ氏を説得するのか、最後の「ホワイトハウスの大人」マティス国防長官も辞めてしまったのだが…。
◆「従北」の度増す韓国
中国はどうか。同誌コラムニストで「クレアモントマッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長」のミンシン・ペイ氏が「『新皇帝』習近平の内憂外患」を書いている。米中関係は「底を打つまで悪化し続けるだろう」と予測、国内は「ひたすら苦境を切り抜けていく年になりそうだ」とし、「一帯一路構想のような壮大な戦略の規模縮小など」が避けられないと厳しい見方を示した。
一方で、わが日本をはじめとする東アジアも米中の対立の狭間で大きく揺れている。指導者たちはどちらの陣営に軸足を置くべきか、と悩ましい決断を迫られているのだ。
韓国はとうの昔に中国に“ずぶずぶ”の状態だ。貿易額も対中取引が最大となり、何よりも将来の南北統一で最大の影響力を持つ中国を無視しては何もできない。元大統領の中には米中の間で「バランサーになる」と大言壮語した人物もいたが、経済力、軍事力、外交力、全てにおいて、その役ではなかった。
同特集の「朝鮮半島」を書いているのは盧武鉉政権で外相を務めた尹永寛(ユンヨクグワン)ソウル大教授だ。「19年も引き続き、核のない平和な朝鮮半島に向けた進展が期待できるだろう」と“呑気(のんき)な”見通しを示しているのには呆(あき)れた。
北朝鮮の金正恩労働党委員長の「経済建設に専念する」路線を信じて、金委員長が「北朝鮮の鄧小平」になるなどと持ち上げているところを見ると、韓国の新年はますます「従北」の度を増すのではないかと心配である。
◆改憲など悲観的見方
ではわが国の見通しはどうなのか。元外交官の河東哲夫氏は「改元、選挙、増税という節目」を迎える年をどう安倍晋三首相が乗り切るかに焦点を当てたものの、むしろこの3点よりも、「19年11月には史上最長の長期政権を実現する」安倍首相の「レガシーづくり」に注目した。
ところが、憲法改正は「実際上難しい」とし、北方領土も「領土抜きの平和条約」に終わってしまう恐れがあると悲観的だ。では何をもってレガシーとすべきか。「米中の間でふらふらせず、『自分はどういう者で、何を欲しているのか』をしっかり捉えて行動するべき」だと訴える。ならば、そのためには国の基本たる憲法を改正し、国家の目指すものを明示し、その実現のための実力を備えるべきだと言うべきである。
河東氏は「大多数の者がちゃんとした暮らしと、面白い人生を送れるという、当たり前のことを旗印にすればいい」と結ぶ。それには同意するものの、「未曽有のリバランス」の激動を迎えて、その暮らしを実現するための根本の制度や装置を抜きにして、いったいどうしろというのか。身構えて迎える新年となりそうだ。
(岩崎 哲)