平成最後の天皇誕生日に「天皇とは」を説く産経の洞察に富む「主張」

◆一般参賀の人出最多

 「この20年、長い天皇の歴史に思いを致し、国民の上を思い、象徴として望ましい天皇の在り方を求めつつ、今日まで過ごしてきました」(平成21〈2009〉年11月。即位20年に当たり)

 「譲位の日を迎えるまで、引き続きその在り方を求めながら、日々の努めを行っていきたい」(平成30年。85歳の誕生日前に。最後の記者会見)

 「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)しています」(同)

 天皇陛下の85歳の誕生日を祝う一般参賀が23日に、皇居で行われた。来年4月末の御退位を控え、在任中最後となる陛下の誕生日の一般参賀者は、平成最多だった昨年を約3万人上回る8万2850人に上った。今の皇居・宮殿での一般参賀となった昭和44(1969)年以降でも最多の人出となったのである。

 今回の天皇誕生日が持つ特別な意義を踏まえ、論調(社説、主張)を掲げたのは読売、毎日、産経(いずれも23日付)の3紙。「殊更、感慨深い今回の天皇誕生日を祝いたい」(読売)と言うように、いずれも祝意と感謝のこもった言葉を紡(つむ)いでいる。

◆国民と苦楽を共に

 3紙とも、即位以来、象徴天皇の在り方を日々模索し、苦楽を共にし、歩まれてきた陛下の姿をたたえた。読売は陛下が「平成の天皇像を、戦没者慰霊や被災地訪問などを通して体現されてきた」ことに言及。そうした努めを果たされる陛下の「国民に寄り添い、苦楽を共にしようという姿に、胸を打たれる人が多いのだろう」と同感した。また「こまやかに周囲を気遣われる皇后さまの姿が、皇室と国民の距離を一層縮めてきた」ことにも触れた。

 その上で、皇太子殿下、秋篠宮殿下が受け継がれる公務の分担を今後の課題とした。「新時代にふさわしい努めを無理なく果たせるよう、皇室の将来までも見据えて、議論を深めていきたい」と結んだ。静かなトーンの祝意である。

 毎日は、平成が戦争のない時代で終わろうとしていることに「安堵」の思いを述べられたことに言及。「平和への強い願いを持ち続け、それを長く国民と共有することを象徴としての大きな役割と認識していたのだろう。国内外で慰霊の旅を繰り返してきた行動にも表れている」と強調した。

 また皇太子時代を含め訪問が11回になった沖縄への深い思いや相次いだ大災害にも寄り添うお気持ちを示されたことなどを指摘。国民の象徴を模索した道のりは、「困難な時代ではあったが、被災地で膝をついて被災者を慰め、励ます姿は国民に感銘を与え、象徴天皇像として受け入れられた」。深い信頼で結ばれた皇后陛下との旅も「象徴天皇像を二人三脚で築いてきた絆を感じずにはいられない」とたたえた。

◆国柄への理解求める

 産経も、両陛下が東日本大震災(平成23年)など大災害の被災地に赴き「避難所の床に膝をつき、被災者に声をかけ励まされた」ことや先の大戦戦没者の「慰霊の旅」を続けられてきたことなどに言及。「どれだけ国民が勇気づけられたことだろう」「諸外国との親善交流などで果たされた役割は計り知れない」とたたえるのは毎日と大きくは変わりない。

 こうした目に見える役割から、産経はさらに「天皇とは祈る人」とされる、目に見えない天皇の務めの本質的、伝統的役割があることを指摘して、その存在の意義を次のように説く。通り一遍の祝賀社説にはない、「天皇とは」から説く洞察に富む主張は、認識と考察を深めてくれると言っていい。

 「宮中祭祀(さいし)を通じ、国民の安寧と豊穣(ほうじょう)を祈られている」

 「天皇は国民のために祈り、国民は天皇に限りない敬意と感謝の念を抱いてきた。それが日本の歴史と国柄である」というのだ。

 産経は「皇位が安定して続いていくことは国民の願いである。皇室に一層の理解を深め、弥栄(いやさか)を祈りたい」と、その主張を結んでいる。平成から次のみ代を前にする私たちに、日本の国柄についての深い理解と自覚を求めているのである。

(堀本和博)