保守とリベラルのねじれをグローバル化をめぐる対立軸で説明する毎日

◆逆転した保革の主張

 サンデー毎日(12月23日号)がトップ記事で「ねじれる保守とリベラル」を載せていて目を引いた。改正入国管理法が成立したことについて、「永田町関係者」が同誌に、「安倍首相という保守政治家が外国人の受け入れを進め、本来進めるはずのリベラルが反対する。不思議なねじれ国会だ」として、従来の保守とリベラルの主張が入れ替わっているというのである。

 こうした見方の根底には「保守」とは固陋(ころう)、頑迷で変革を好まず、外部からの異なるものの進入を拒む、という決め付けがある。だから、保守が変革し外国人を受け入れるはずがない、という思い込みが裏切られたと感じたのだろう。

 同誌は冒頭に改正入管法が成立した後、「日本解体阻止! 亡国移民法案絶対反対!」の横断幕を掲げて国会前でデモをしていた集団を紹介した。「声の主は、『日本文化チャンネル桜』の水島総(さとる)社長(69)。保守系の草の根運動団体『頑張れ日本!全国行動委員会』幹事長として、憲法改正を目指す安倍政権を応援し続けてきた」人物である。これこそ「保守」の見本だと言わんばかり。

 ところが、中高年以上の1970年代の学生運動や保革対立の時代を生きた世代に刷り込まれている「保守とリベラル」の線引きが、今では通用しなくなっている。

◆野党の方が保守勢力

 「近年の世論調査では、30歳未満が日本共産党を保守と認識し、自民党をリベラルと回答している。既に対立軸そのものが崩れている」と「関西大の竹内洋(よう)・東京センター長(社会学)」が同誌にコメントしている。実際は自民党が変革を進める政党であり、むしろ野党が保守的だと若者たちが判断しているというわけだ。

 「最近の自民党は『人づくり革命』や『生産性革命』など改革主義の印象を強めている」(竹内氏)のに対して、「憲法改正反対、安保法制反対、TPP反対、消費増税反対、働き方改革反対……。頑固に現状維持を貫く共産党の姿勢が、若者には保守と映る」のである。

 独り共産党だけではない。他の野党も同じで、例えば「護憲勢力」などはおしなべて頑迷な保守勢力と言っていいだろう。さしずめ安倍政権の改革路線にことごとく反対する同誌などは「保守系週刊誌」と呼ぶのが適当か。

 そもそも安倍首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」こそ、保守ではなく、改革、変革を指向するものだ。そう見てくると、安倍政権への批判、反対は変化したり現状が崩されることへの怖れが背景にあると思えてくる。

 さて、同誌は「今後、政治イデオロギーは、何を基軸にしていくのだろうか」と問い掛け、「元総務官僚で政策コンサルタントの室伏謙一氏」に答えを求めた。

◆現政権は新自由主義

 室伏氏は、「安倍政治は保守ではなく、新自由主義。メディアは欧州の反移民を掲げる政党を右翼と表現するが、となると、移民受け入れを推進する自民党安倍政権は右翼でなくなる。つまり、移民受け入れ推進は新自由主義・グローバリズムであって、それに反対し地域・国民を守ろうとするのは国民政党。対立軸はグローバル化推進か反グローバルか、となる」と解説した。反グローバルとは「◯◯ファースト」と叫ぶ保護主義者のことのようだ。

 この記事の大半は「保守とリベラル」よりも「すっかすか」の改正入管法を批判することに費やされている。確かに現実的に「移民受け入れ」につながっていくものならば、時間をかけて、中身のある法改正にすべきだというのは正論だ。急いだのは人手不足に悩む中小企業対策のためで、来年夏の参院選の支援を取り付けたいという思惑からだという批判も多少はうなずける。

 ただし、現実に困っている中小企業をどう支援していくかも政治の課題だ。同誌は「元凶は緊縮財政にある。その結果として低賃金で、低賃金の職に人が集まらないのは当然」との室伏氏のコメントを載せ、賃上げを主張した。しかし賃上げがどれくらい中小企業の経営を圧迫するかについては触れていない。

 どうりで、戦後の左派勢力が「賃上げ」要求ばかりしてきたことを思えば、十年一日のごとく変わらない要求が「保守」と映るのも無理ないことなのだ。

(岩崎 哲)