ISSからのカプセル回収で「有人」視野に将来像示せと迫った産経
◆日本独自の回収は初
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際宇宙ステーション(ISS)での実験で得た試料を、自前の手法で回収することに成功した。
ISSに必要物資を運ぶ日本の無人補給機「こうのとり」7号機は、帰路、不用となった物資を積み、大気圏再突入で焼失したが、大気圏再突入前に、実験試料を入れた小型カプセルを分離。小型カプセルは大気圏を無事通過し、予定通り南鳥島沖に着水し回収されたのである。
実験試料の回収はこれまで米スペースシャトルで、シャトル退役後の現在は、ロシアの「ソユーズ」宇宙船か米スペースX社の「ドラゴン」補給船しかない。ISS計画で日本が独自に物資を回収したのは今回が初めてである。
これについて、社説で論評を載せたのは、産経(13日付)と日経(15日付)の2紙のみ。見出しを記すと、産経は「『有人』視野に将来像示せ」、日経は「宇宙カプセル技術どう生かす」である。
◆重要性増す帰還技術
2紙のうち、「将来の有人宇宙開発にもつながる。日本の宇宙開発にとっては大きな一歩である」と、今回の意義を強調したのは産経である。
なぜ、有人宇宙開発につながるのかというと、こうのとりはISSに係留された状態で、宇宙飛行士が船内活動できる有人仕様になっているからである。こうのとりは開発の段階から、有人化や往還型への改良の構想もあった。
加えて、秒速8㌔という高速移動中でのISSへの接近、ランデブー技術は米航空宇宙局(NASA)をして「奇跡」と言わしめたほど高く評価されている。
産経は、小惑星探査機「はやぶさ」のような無人機による科学探査においても、また有人活動においても、帰還技術の確立は今後さらに重要性を増していくだろう、と指摘。今回の回収成功は、「帰還技術としては『はじめの一歩』だが、日本の宇宙開発はこれを大きく発展させて、世界の中での存在感を高めるべきだ」と強調する。同感である。
ISSは2024年までの運用が決まっており、その後は、宇宙開発の主舞台は月や火星に移るとみられるが、そんな中で、「人と物資、とりわけ人を安全、確実に往還させる技術の有無が、国際協力の中での存在感を大きく左右することは間違いない」(産経)であろう。
ところが、近年の日本の宇宙政策は、産経が指摘するように、実用衛星の打ち上げや商業化に重点が置かれ、有人宇宙船開発をはじめとする長期構想を事実上、棚上げしてきた。「はじめの一歩から飛躍しようにも、方向性が示されていない」(同紙)のである。同紙が、社説の文末で、カプセル回収を契機として、「政府は直ちに独自の有人化技術に関する本格的な議論を行い、宇宙開発の将来像を国民に提示すべきである」と訴えるのも、頷(うなず)ける。
◆コスト面重視の日経
一方の日経は、「地球に物資を戻せるのは米ロの補給船や宇宙船のみだ。日本が仲間入りしたのは快挙」、自前の輸送手段で回収できれば「作業の迅速化とコスト低減に役立つ。実験スケジュールなどの融通も利きやすくなる」と評価するも、「問題はその先の戦略だ」と慎重さを見せる。
無人補給機のプロジェクトには2014~18年度だけで1200億円近くを投じており、「有人化に必要な安全性を確保するには、さらに大きな開発費と人材を投入する覚悟が要る。他のプロジェクトを犠牲にしなければならない場面も出てくるのではないか」(日経)というわけである。
そこで同紙が、「検討に値する」として提案するのは、JAXAが最後まで完成させるのではなく、早期に民間に技術移転し事業化を支援する方法である。同紙は米国ではスペースXが有人往還機を開発中だとしたが、米国ほど民間宇宙開発事業が活発でない日本で可能なのかどうか。
結論として、同紙は産経と同様、わが国宇宙開発の「将来像をはっきり描きたい」としたが、その趣旨は「日本が宇宙戦略で何を重視し、官民の役割分担をどうするのか」というコスト面からの視点で同紙らしい。一方、産経のそれは「宇宙開発は科学技術の総合力、国力の指標でもある。この分野での存在感は、日本の安全保障全般に深くかかわる」というもので、これもまた同紙らしい視点である。
(床井明男)