歯舞・色丹2島を最低か上限か各党が日露交渉を問うた「日曜討論」
◆北方領土返還の行方
東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議、東アジアサミット、アジア太平洋経済協力会議(APEC)では、舞台となる地域で「自由で開かれたインド太平洋戦略」、シルクロード経済圏構想「一帯一路」をそれぞれ打ち出す米国と中国の対立が際立つ中で、唐突ながら注目されたのが、14日にシンガポールで行われた安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との日露首脳会談だった。
ここで首相は、平和条約締結後に歯舞・色丹2島を引き渡すとした1956年日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させる合意をしたと発表し、年明けに訪露すると表明。「私とプーチン大統領の手で終止符を打つ」と決意を示した。
18日のNHK「日曜討論」は、6党政策責任者討論の冒頭のテーマに日露首脳会談を取り上げた。もとより、北方領土返還要求では政府・与野党全党が一致している。焦点は歯舞、色丹、国後、択捉の4島一括返還を求めてきた従来の主張が、56年共同宣言を交渉の基礎にすることでどうなるかだ。
自民党の田村憲久政調会長代理は4島返還が政府の方針であることを確認した上で、「話し合いの糸口に関して一定の進展を見た」と評価。首相の「強い決意を感じた」という公明党の石田祝稔政調会長は、「ここが最低のところだよというのがはっきりした」と述べ、最低でも2島返還と捉えた。
◆立憲・長妻氏が警戒
逆に、「2島を上限とする交渉の時代に入ったのか、2島すらどうなるのか」と、警戒感を示したのは立憲民主党の長妻昭政調会長だ。「共同宣言には2島返還について主権はどちらになるか、具体的な引き渡しについて書いていないと直後の会見で言っている」と、首脳会談の翌日にプーチン大統領が露メディアに語った発言に触れた。
4島だけでなく千島列島の返還を主張する共産党の笠井亮政策委員長は、「2島先行は当然あり得る」が、「2島返還で平和条約を結んではならない」と主張。さらに「日露首脳会談で領土放棄の動きが加速した」と、首相を批判した。
国民民主党の泉健太政調会長は、臨時国会の代表質問で玉木雄一郎代表が2島先行返還を提案したことを指摘し、「答えを出す時代になっている」と述べ、「2島プラスアルファ」に期待した。日本維新の会の浅田均政調会長も「現実的な解決法」として評価した。
この中で、立憲の長妻氏の示した懸念は当然であり、旧ソ連軍の不法占拠がロシアへの体制移行後も全く改まらないままの平和条約はあり得ない。領土問題に強い姿勢を見せてきたのは保守の自民党だが、交渉が動く時に間違いが起きないかチェックするのは野党の建設的役割だ。
◆鈴木氏が元島民説得
同日のTBS「サンデーモーニング」は、戦後の日ソ・日露交渉の経緯や北方4島の実効支配の現状、ロシア軍の展開状況をおさらいしながら、プーチン大統領が「2島の主権がどちらに属すのかについては書かれていない」と述べたことを踏まえ、司会の関口宏氏らは交渉に懐疑的な見方を示していた。
姜尚中氏(政治学者・東大名誉教授)は「主権という曲球は米軍基地をここには置けないぞ」ということであり、島の返還交渉は日米の問題になると指摘。一方で日露平和条約が結ばれれば、「対中戦略的にはいい条件」となり「米国はこれを意外とのむのではないか」との考えを示した。
また、同日の日本テレビ「真相報道バンキシャ!」は、明治時代に政府が増上寺(現東京・港区)に色丹島を支配させていた歴史や、色丹島に住むロシア人に撮影してもらった漁業コンビナートや工場、スーパーなど実効支配の様子を伝えた。
また、日露首脳会談に元島民から「ロシアの思うつぼだ」との異論も出ていることを取り上げ、新党大地の鈴木宗男代表が根室市で元島民を2島先行論で説得する会合を映した。
2島先行の動きになっており、北方領土返還はわが国の悲願だが、領土一点に集中するのをロシアに逆手に取られないとも限らない。
ロシアは米国、中国とのパワーゲームの中で日露交渉を捉えている。とりわけ、ロシアがクリミアを併合した後、欧米諸国から経済制裁を受け、「新冷戦」が懸念されるようになった。日露平和条約は危険な橋かも知れないことを留意すべきだ。
(窪田伸雄)