セレブの街・青山に児童相談所建設で紛糾する説明会を特報したフジ

◆怒号が飛ぶ録画入手

 ブランド店が集まる高級繁華街と児童虐待や家庭内暴力(DV)対策。いわば世間の光と影の組み合わせに論争を巻き起こしたのが、東京・南青山5丁目に「子ども家庭総合支援センター」を建設する港区の計画だ。

 同区が開いた14日の住民説明会の録画を入手したフジテレビは、16日早朝から昼すぎにかけて「めざましテレビ」「とくダネ!」「直撃LIVEグッディ!」で特集した。

 「ちょっと待て」「なんであなたが答えられないんですか」などと叫ぶ住民が区職員に詰め寄り、会場には「全然青山じゃなくていいんじゃないですか」「田町とか広い所いっぱいあるじゃない」など怒号が飛び交う。紛糾ぶりを映す「参加者撮影」の録画はテレビの好材料である。

 各番組が指摘した問題点は、一つに場所が東京メトロ・表参道駅が最寄りの「超一等地」で、有名店が並び、観光客が多く、地価も物価も高い青山通りの繁華街からすぐ近くで、用地は3200平方メートル(約1000坪)と広いこと。

 また、児童福祉法改正で児童相談所(児相)を都道府県以外に東京23区も設置できるようになり、港区は①子ども家庭支援センター②児相③母子生活支援施設―を備える総合支援センターの2021年4月開設を決めたが、②には虐待されている子供や14歳以下で刑法に触れた触法少年を、③にはDVから逃れる母子らを一時保護する役割もあること。番組は、それを知らなかった住民の声を拾っていた。

◆区の説明不足に怒り

 例えば「とくダネ!」では、触法少年一時保護の説明を区が意図的に抜いたのではないかと疑う住民の質問に、曖昧な対応の職員が「ごめんなさいね。時間がもったいないので」と受け流し、これが住民の怒りに火を付けたという展開。「住民の声(より時間)がもったいないと言うのか」と怒鳴り声が起こり、一部が職員に詰め寄っていく。

 また、「なぜ青山なのか」という質問に、職員が「すべての機能を入れる土地はほかにありませんでした」と説明すると、「表参道の超一等地に…そういうものを持ってきたときに、港区としての価値が下がる」との懸念も出た。

 撮影の主がどちらを問題にしたいか不明だが、説明会の構図は、2年前から行政手続きを粛々と進めたものの地元への説明が不十分な区側に対し、“寝耳に水”の住民側の怒り・困惑と言えるだろう。説明会は12日にもあったが、こちらの「参加者撮影」はテレビ朝日が14日、ANNニュースで扱った。しかし、フジの14日説明会ほど紛糾した様子は放送されなかった。

 ただ、各番組は、一様に青山をブランド、セレブの街として紹介。そこから出た、港区の価値が下がる、田町に土地がある、ネギ1本買うのも高いのに困窮した人が来て生活できるのか、ランチが1600円するところだ…などの発言に落とし穴があった。

◆反感買った住民発言

 16日フジが放送すると、視聴者の反感は住民側に対して広がった。区を追及する中で出る言葉の端々に、施設に保護される社会的弱者を相手にしない一等地住民の容赦なき本音として聞こえてしまったのである。各番組は現地を歩いて賛成する住民の声も紹介したが、なにせ「参加者撮影」のインパクトがすごい。20日「報道プライムサンデー」になると、ネット上の反感の広がりにも言及した。

 18日「バイキング」では、反対派が結成した「青山の未来を考える会」の主張として「青山の真ん中にそぐわない」「海外の観光客に何の貢献やアピールもしない」「街の発展のブレーキになり街の魅力が半減」するので、「街を台無しにする行為は許されない」となり、「田町など広い所いっぱいあるじゃないか」との発言になるとパネルで紹介。

 これに司会の坂上忍氏は「これはちょっとひどい言い方なんじゃないかと僕は思いますけどね。田町の人に失礼ですよ」とコメント。

 また、住宅ジャーナリスト・櫻井幸雄氏から聞いた「港区には1000坪どころか100坪の空き地もない」との実情を指摘。区側の計画根拠を確認した形だ。

 テレビは6月、5歳の幼女が亡くなった目黒児童虐待事件、その「おねがいもうゆるして」など悲痛な書き残しを連日大きく扱った。これを何とかしたい―視聴者の反響は過去の放送の反響でもあるだろう。

(窪田伸雄)